マイナス金利の比にならないほどの劇薬!? ヘリコプター・マネーとは?
最近、ヘリコプター・マネーという言葉が話題になっています。文字通りヘリコプターからお金をばらまくという政策です。もちろん、実際に人がヘリコプターからお札を落とすわけではありませんが、端的に表現すればお金を無料で配布するという政策です。 一見すると、非現実的な馬鹿げた議論に思えるかもしれませんが、これは事実として、最近活発に議論されています。こうした議論が盛り上がっていることを認識しておくべきでしょう。第一生命経済研究所の藤代宏一さんが解説します。
現在の日本の政策はどうなっている?
この政策は金融政策と財政政策をミックスした最終進化形の政策で、マイナス金利の比にならないくらいの劇薬ですが、それだけあってその効果と副作用も凄そうです。 そこで、まずは現在の日本で採られている政策をおさらいしましょう。日銀は2013年以降、量的・質的金融緩和(QQE)という政策を採用していますが、実はそれ以前の10年から「包括緩和政策」と呼ばれる、現在の枠組みと似たような金融緩和策を推し進めてきました。いずれも軸となるのは国債の購入で、これは連邦準備制度理事会(FRB)のQE(09年から14年まで3度にわたって実施)や欧州中央銀行(ECB)のそれとほぼ同様の手法です。 この国債購入は、民間銀行が保有する国債を中央銀行が(基本的に民間銀行にとって有利な条件で)買い取るというもので、その代金の支払いのことが「中央銀行の資金供給」と表現されています。ただ、筆者は「中央銀行がジャブジャブに資金供給をして……」という誰もが一度は耳にしたことがあるこの表現に違和感を覚えます。これだと、あたかも日銀が無料で民間銀行にお金を渡しているような誤解を与えるからです。ジャブジャブといっても、それは単に国債の売却代金を受け取っているのに過ぎないのです。
政府が無料でお金をばらまく? 問題はないのか
その点、ヘリコプター・マネーの考え方は豪快です。国債などの対価を受け取ることなく、本当に無料でお金をくれます。実行するのは政府、それを側面支援するのが中央銀行です。 まず、政府は国民に“究極のばらまき”を施します。それが、「地域振興券」、「子ども手当」、「介護手当」、「○○給付金」なのか、具体的な手段はわかりませんが、とにかく現金同等物を大規模に国民に行き渡らせます。突然、現金がふところに入れば人々はそれを消費に回すと考えられるため、経済活動が活発化します。消費の活性化によって景気がよくなることや、おカネの総量が増えることで金額ベースの経済規模が嵩上げされ、物価が上昇し易くなります。従来型の金融・財政政策を総動員しても困難であったデフレ脱却が、いとも簡単に成し遂げられるというわけです。 しかしながら、問題となるのはその財源と将来の返済です。そこで中央銀行である日銀の出番です。中央銀行は政府が発行した赤字国債を満期、あるいは永久に保有する前提で買い取ると約束することで、政府による(理論上は)無限の赤字国債発行を可能にさせます。 これを大規模かつ継続的に実施するとアナウンスするのです。要するに返済の必要のないおカネを大量に発行・配布するのです。ちなみに、このような政府と日銀の関係は、戦時中に酷似しています。戦費を調達したい政府が日銀に国債を引き受けさせ、日銀を“打ち出の小槌”として活用したのです。その成れの果てが戦後の物価急上昇でした。 このように政府と日銀が癒着すると、歯止めがきかなくなるとの反省から、現在、日銀は政府から独立しています。なお、ヘリコプター・マネーの類義語として財政ファイナンス、マネタイゼーションという言葉がありますが、どれもほとんど似たような意味です。 さて、話を戻します。多額の現金が配られたら、何が起こるでしょうか? 予想される望ましい効果は上述したとおり経済が活発化して物価が上昇するほか、おカネの価値が(適度に)下落するため、インフレ率が上昇しやすくなることです。 反対におそろしいのは、政府・日銀に対する信用が失われ、円の通貨価値が暴落するなど、経済的混乱に陥ることです。お札という紙切れに価値があると人々が信じるのは、政府と日銀の後ろ盾があるからです。政府・中央銀行の信用が失われた戦後の日本、90年代後半のアジア(通貨危機)、最近のアルゼンチン、ベネズエラ、ジンバブエなどでは通貨価値が安定せず、経済が大混乱に見舞われました。このことを再認識する必要があるでしょう。