『海のはじまり』第8話 2人の心の距離を表現した繊細な演出にも注目
父親と息子の距離、恋人同士の距離
基春が心のうちを吐露した瞬間、夏との距離感も縮まっていく。それを見事に映像化した演出が素晴らしい。カメラは、上手(右側)に向かって歩いていく基春と、下手(左側)からそれに付いていく夏を捉えている。そして次第に夏が基春との距離を縮めて、下手に大きなスペースができるような映像設計を施しているのだ。父子の心の距離を、横に広がる空間を有効活用して描いているのだ。 縦の空間を使って二人の心の距離を表したシーンもある。スーパーで夏と弥生(有村架純)が買い物をしている場面。 「子供の好きなものがいいよね」 「でも、好き嫌いがほとんどないんだよ。偉いよね」 「水季さんがちゃんと食べさせてたんだね」 弥生にとって「子供の好きなものがいいよね」という発言は、海の母親になる意思を改めて表明したものだったはず。だが会話は微妙にずれていき、夏の元カノの話に帰着してしまう。そんなちょっとした心のズレ、心の距離感を、「カメラ手前に向かって進んでいく夏と、その場に立ち尽くす弥生」という、縦の空間を使った演出によって描いている。 精密な演出で描かれる、父親と息子の距離、恋人同士の距離。『海のはじまり』は、シナリオの見事さもさることながら、繊細な演出にも注目すべきドラマだ。
竹島 ルイ