221年ぶりに大量発生するセミを「ゾンビ化」、死ぬまで交尾を強いる恐るべき寄生体
菌はどのように広がるのか
マッソスポラ菌は基本的に、セミ界の性病と言える。 感染の第1段階にあるセミは、交尾相手に菌を広げ始める。特に、オスの交尾行動に与える影響が興味深い。2018年に学術誌「scientific reports」に発表された論文によると、感染したオスは羽を動かすという求愛行動をとるようになる。 この行動は通常メスにしか見られない。つまり、オスが羽を動かしていると、別のオスまでもが交尾しようと近づいてくる。こうして、感染したオスはメスにもオスにも交尾相手として見られてしまうと、米コネチカット大学の昆虫学者で論文の著者のジョン・クーリー氏は言う。 さらに、感染したセミのお腹の中も胞子でいっぱいになる。これが、感染の第2段階だ。 最終的にお腹が破裂して、中の胞子は地面にぶちまけられる。すると、木を降りてそこへやってきた次世代の幼虫が土に潜る前に感染してしまう恐れもある。
覚せい剤や幻覚剤の成分を検出
マッソスポラ菌に感染したセミがなぜ活発に行動するようになるのかは長年の謎だったが、セミが高揚状態になっているのではないかという説がある。 最近の研究で、覚せい剤の成分でアンフェタミンの一種であるカチノンが、13年ゼミと17年ゼミに感染するマッソスポラ菌に多く含まれていることがわかった。カチノンはある種の植物に自然に存在するが、真菌での記録はそれまでなかったと、グウィンはポッドキャストで話している。 「マッソスポラ菌に侵されたセミからも、これと全く同じ物質が発見されました。しかも大量に、です。セミが長時間覚醒し続けるわけが、これで説明できます」 しかし、全ての感染したセミから同じ物質が見つかっているわけではない。周期ゼミではなく毎年現れるセミから採取したチョーク状のカビ菌をカッソン氏が調べたところ、マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分のシロシビンが検出されたという。 セミが地上に出てくるたびに、科学者たちは新たな研究の機会を得る。そうなれば、また何か興味深い発見があるのではないかと、カッソン氏は期待している。 「地下には多くのことが隠されていることがわかります。事実は小説よりもはるかに奇なり、ということでしょうか」
文=Amy McKeever/訳=荒井ハンナ