『光る君へ』矢部太郎の乙丸は“妖精”のよう 「#オトモズ」が日曜日の癒やしに
NHK大河ドラマ『光る君へ』で矢部太郎が演じる従者の乙丸は、まひろ(吉高由里子)の幼少期からずっとそばに付き添い、彼女を守ることを自分の使命としている。 【写真】日曜日の癒しになっている#オトモズ まひろに長年尽くしてきた乙丸にしか気づけない秘密もある。身分違いで、結ばれることのないはずのまひろと道長(柄本佑)がどのように出会い、なぜ互いをそんなにも特別な存在として意識していったのか。2人が出会った頃のことも、共通の友人のような散楽の直秀(毎熊克哉)の悲劇も、疫病に倒れたまひろを道長が命がけで救ったことも、乙丸はまひろのそばにいたから知っている。立場上、守秘義務もあるが、真面目な性格ゆえ「俺だけが知っている」などと、偉そうなどや顔とは無縁なところも乙丸のかわいいところ。 ちなみに、知っていそうで乙丸自身、気づいていないことも多々ありそうだが、乙丸がまひろを思う気持ちはどこまでも誠実だ。まひろにしてみれば、乙丸に心配をかけるつもりはないし、守ってほしいとも思ってはいないようではある。 それでも乙丸には、第1回「約束の月」で、まひろの母・ちやは(国仲涼子)が道兼(玉置玲央)に斬られたときに何もできなかったという後悔があり、まひろを守りたい気持ちは揺らいでいない。 つねにまひろの味方で、まひろを心配して困った顔をしている乙丸は時々、妖精のような不思議な存在に映ることがある。実際、乙丸の素朴な魅力に癒されている人も多いと聞く。 道長の従者の百舌彦(本多力)と仲が良く、お供の2人が一緒のシーンがあると「#オトモズ(乙/百舌)」の話題でSNSが盛り上がる。最近は、道長の出世とともに道長に仕える百舌彦の衣装や烏帽子にも高級感が漂う。 道長がまひろに一条天皇(塩野瑛久)の興味を引く物語の執筆を依頼したことで、この「オトモズ」2人が一緒にいる場面につながり、改めて道長とまひろの深い縁を思わずにはいられない。そして、乙丸と百舌彦のやりとり、細やかでかわいい演技にも視線が集まる。 第33回「式部誕生」で、まひろは一条天皇のための物語を執筆するため、内裏に出仕を果たした。ところが、慣れない内裏の空間では集中力を保つのが難しい。そのうえ、ほかの女房たちに気を遣い、仕事を手伝っていると思うように筆が進まない。 物語の続きを書くために、いったん実家にも戻ったまひろに真っ先に気づいて反応したのは乙丸だった。弟の惟規(高杉真宙)「涙で別れてまだ8日だよ」と、からかうように明るく言い放つ横で、乙丸は「8日もご苦労なさったのですね。おいたわしい」と、心底心配そうな顔でまひろを見つめていた。 まひろの父親・為時(岸谷五朗)の無官の時期、どんなに家が貧しくても為時とまひろのために働き、為時が越前守に就任して越前に行ったときも乙丸はまひろに同行した。越前で海女をしていたきぬ(蔵下穂波)と乙丸が仲良くなったのは、まひろの好物のウニがきっかけだ。まひろの幸せが乙丸の幸せに直結しているというのも、乙丸らしい。 実家で物語を執筆したまひろが、道長を介して物語の続きを献上すると、一条天皇はまひろに会うために藤壷にやってきた。そして、まひろに「朕のみが読むには惜しい。皆に読ませたい」と、物語に興味があることを伝えられた。道長はまひろに褒美として、扇を贈った。その扇には、初めて川べりで出会ったまひろと(まだ三郎と呼ばれていた)道長の2人の様子が描かれていた。 かつて道長が左大臣家の婿になると告げたとき、まひろは「私は私らしく、自分が生まれてきた意味を探してまいります」と言っていた。書きたい物語を思うままに書き続ける……自分の道を見つけ、強さを手に入れたまひろ。藤壷で執筆に励むようになると、乙丸は使命を果たしたということになるのだろうか。 乙丸としては、我が道を突き進むまひろが従者の乙丸を必要としなくなる寂しさを感じるのかもしれない。とはいえ、大切に見守ってきたまひろが自分の道を立派に歩いていくことは乙丸にとっても誇らしいことに違いない。これから先、乙丸には愛するきぬがそばにいてくれるので、きぬに守られる乙丸の日常も穏やかに続いてほしいものだ。
池沢奈々見