欧州サッカー「違いを生み出す選手」の定義とは? 最前線の分析に学ぶ“個の力”と、ボックス守備を破る選手の生み出し方
「ゲーゲンプレス」の成功に不可欠な要素
攻撃から守備への切り替えでは、相手にボールを奪われた瞬間にプレスをかけてボールを奪って攻撃につなげる「ゲーゲンプレス」がテーマ。 元リバープール監督ユルゲン・クロップの十八番であるこの戦術では、チームの共通認識のもと、ボールロストと同時に足を止めずすぐにボール奪い返すことが絶対条件。ラルフ・ラングニック監督が率いるオーストリア代表は、選手の多くがザルツブルグやライプツィヒで指揮官の戦術に慣れ親しんでいる選手が多く、ゲーゲンプレスの成熟度は参加国中トップレベルと評価されていた。 また、守備から攻撃への切り替えという観点においては、守備者の存在がこのゲーゲンプレス戦術の成否を分ける。キープレーヤーの一人としてドイツ代表DF、ヨナタン・ターが取り上げられていたのが興味深い。 「ゲーゲンプレスを受けた相手選手は、プレスを回避するため前線へパスを送ることが多いですよね。だからゲーゲンプレスを実行する側のチームは、そのクリアボールに対してヘディングでも足元でも、そこでボールを跳ね返し、マイボールにできる選手がいないとこの戦術は効果が最大限に発揮できません。ターは狙い通りのアタックで相手クリアの多くをマイボールにしてくれました」(プルス) また、この局面においてもスペインのロドリが別次元とも思えるクオリティを発揮していたことも話題に上った。相手のカウンターを許さないポジショニングや最適なボールアタックなど、1人で何人分ものタスクを連続で完遂していた。
“違いを生み出す選手”の育て方
守備から攻撃への切り替えでは「素早い前進」をテーマとして、オランダ代表のシャビ・シモンズやデンマーク代表のクリスティアン・エリクセンをピックアップ。 シモンズやエリクセンは、相手守備選手の意識がボールに集中している間に、一瞬のスキを突いてワンタッチやドリブルでそこから前進できるスペースへと抜け出すのがうまい。スペイン代表だとダニ・オルモがこの中に入ってくる。彼らはファーストタッチをゴール方向へ持ち込むのが習慣化されているし、そのための体の向きの作り方がとても巧みなのだ。 「戦い方のベースがあるうえで、試合の中ではどこかで違いを生み出すことが重要になります。育成年代からゲーム形式のトレーニングを中心にルール設定やオーガナイズで仕掛けを作り、競り合いやフィジカルへの負荷がある中でスキルや戦術理解に選手が取り組む環境を整えることが大事です。そしてルールやオーガナイズによる仕掛けはあくまでも選択肢の一つだというのを忘れてはいけません。 例えば2チームでのゲーム形式の練習で、それぞれのゴールの前に2カ所のマーカーゴールを置いて、ゴールを決めたら2点、ゴールを決めたチームは味方GKからのボールで素早くゲームを再開し、ドリブルで自陣近くのマーカーゴールを突破したら1点、というルールでプレーします。得点後、すぐにGKからボールをもらってマーカーゴールへドリブルで運べたらいいですが、相手がプレスに来ているのに無理にマーカーゴールを狙う必要はない。そうした時は選択を変えてプレーすることが必要になります。そのように優先順位を整理しながらプレーする機会を増やしていくのがとても大切ではないかと思っています」(プルス) 「個の力」「違いを生み出すクオリティ」という言葉はよく使われるが、具体的にどんな局面でどんなタスクをどのように実践できる選手が求められるのかを理解することはとても大切なことだ。 「個の力」とはドリブルで何かをする選手のことだけを指すのではないし、決まりきった一つの能力だけがサッカーの試合を決定づけるわけではない。個別トレーニングが独り歩きをしてチームとしてのサッカーから離れてしまうと、狙い通りの効果をピッチにもたらすことは難しくなる。前述した「違いを生み出す選手の定義」にあるように、状況と照らし合わせた能力を正しく認知し、その中で各々の特徴を磨いていくことが重要なのだろう。 <了>
文=中野吉之伴