欧州サッカー「違いを生み出す選手」の定義とは? 最前線の分析に学ぶ“個の力”と、ボックス守備を破る選手の生み出し方
守備局面における特徴は「ボックス守備」。コンサは股下さえも…
サッカーにおける4局面というと、昔から「攻撃」「攻撃から守備への切り替え」「守備」「守備から攻撃への切り替え」とされている。今回バリッチらテクニカルチームは、それぞれの局面における特徴を見つけ出し、それぞれの特徴において「違いを生み出す選手のプレーをピックアップする」というやり方での分析を試みている。 まず守備局面における特徴は「ボックス守備」。多くの選手をペナルティエリア内・付近に設置し、狭いスペースに数多くの選手を並べることで失点のリスクを下げる守り方だ。チーム全員が協力してペナルティエリア付近で常に相手に空間的、時間的、精神的プレッシャーを与え続ける。またこうしたボックス守備を貫徹するためにはゴール前の危険なエリアやゴールへのパス、クロス、シュートをブロックするスキルがDF側に求められる。 「例えばポルトガル代表DFペペ、スペイン代表MFロドリ、あるいはイングランド代表DF(エズリ・)コンサはこうしたボックス守備において卓越したプレーを見せていました。ペペやロドリは危機察知能力が極めて高いですし、相手へアプローチするタイミングと強さにも優れています。コンサは大会を通してレギュラーだったわけではないですが、シュートブロック能力がとても高い。堅い守備を崩すためにトップレベルのFWはDFが足を出して守ろうとするのを逆手に取り、股下を抜くシュートを狙いますが、コンサは股下さえも通させないブロックを何度も見せてくれました」(バリッチ) クラブレベルでも代表レベルでも人数をかけてゴールを守るクオリティが上がれば上がるほど、ゴールを奪うのは大変だ。代表チームでは練習時間を確保するのが困難なので、戦術を落とし込むのが難しいといわれているが、だからといって個人任せでは相手の思うつぼになる。
「ボックス守備攻略」のカギ。クロースのワンタッチパスが…
そんななか、攻撃の局面における特徴として「ボックス守備攻略」が見られたのは興味深い現象だったという。 手数をかけて守る相手に対して、目的と狙いを持ってゴールチャンスを作り出し、それを決めきる。オランダ代表FWコーディ・ガクポ、イングランド代表FWブカヨ・サカ、そして優勝したスペイン代表FWラミン・ヤマルやニコ・ウィリアムスはほんの少しのスキを見逃さずに、チームに大きな効果をもたらす選手だった。 「左利きの選手が右サイド、右利きの選手が左サイドという配置は最新の取り組みではないですが、この配置をより効果的に生かすためのチームとしての取り組みがよく見られました。例えばサイドバック、ウイングバックがスピードに乗ってオーバーラップを仕掛け、ほんの一瞬相手守備にズレが生じたスペースを彼らが生かしきってゴールにつなげるシーンが多くありました。状況打開力を持った選手を生かすための状況作りをチームとしてしようというのが一つ、そして彼らが仲間によって作られた状況を最適に認知して生かしきる仕掛けができていたというのが二つ目のポイントですね」(バリッチ) 少しのズレを突いた崩しをするためには、その状況を作り出すために素早く正確なパスを送れる選手が欠かせない。ドイツ代表ではトニ・クロースの精密なワンタッチパスが相手に守備組織を整えさせる時間を与えず、そこで生じたスペースをイルカイ・ギュンドアン、フロリアン・ビルツ、ジャマル・ムシアラが飛び込むというプレーが高いレベルで行われていた。 また攻撃においてはもう一点「ラインブレイク」が取り上げられていた。相手チームが構成するそれぞれの守備ラインをどのように突破するのか。どこへ相手選手を引き寄せるのか。どこで変化をつけるのか。そこからどのようにブロック守備崩しへ持ち込むのか。このあたりのアプローチは各チームのプレー哲学や抱える選手の特徴によっても変わってくる。代表例として挙げられたのは、スペイン代表DFのロビン・ル・ノルマンとエメリク・ラポルテ、イタリア代表DFのリッカルド・カラフィオーリ、ポルトガル代表DFのジョアン・カンセロ、スイス代表MFのグラニト・ジャカ。だ 「スペイン代表の両センターバック、ル・ノルマンとラポルテはドリブルで中盤までボールを運ぶタイミングとコース取りが非常に優れていました。あとイタリア代表だとカラフィオーリ。ポジション的にはセンターバックでプレーする選手ですが、スペースを見つけると勇敢かつクレバーに攻め上がり、さまざまな状況で新しい変化をもたらします。時に前線のスペースにまで走り込みますが、それでもチームとしてもバランスを崩さない。 ポルトガル代表はポジションチェンジがとても多いチーム作りが特徴的です。カンセロはサイドバックとして出場した場合でも、ボランチからインサイドハーフ、トップ下やウイングの位置にまで顔を出します。そうした変化をつけられる選手に呼応して周りの選手がポジショニングを取り直す。 あるいはスイス代表のジャカ。チームの心臓として攻守のリズムを作り出す選手です。俯瞰的な視点で状況をスキャンし、いつ、どこで、どのように攻撃をスピードアップすべきかを掌握しています。ジャカを経由すると途端にボールのめぐりが滑らかになりますし、相手が警戒してくるのを逆手にとり、自分が動くことで味方のパスコースを作り出すのもうまい」(プルス)