"空の玄関口"で再開発進む「大田区」、利便性で注目3駅
個人投資家の資金の運用先として根強い人気を誇る不動産投資。投資指標としては販売価格と賃料から割り出す「利回り」などがありますが、人気エリア、駅近など、さまざまな要因から価格形成されます。 本連載では、不動産専門の国内最大級のデータ会社である東京カンテイの市場調査部執行役員兼上席主任研究員兼東京カンテイマンション図書館館長である井出武さんに、最新のデータを使って行政区別のマンション市況を解説してもらいます。 大田区は東京23区の南に位置し多摩川に接する区であり、羽田空港があるという意味において、「空の玄関口」として重要な区である。個人的な話になるが、データを扱っていて「大田区」が「太田区」と誤変換されることに悩まされた時期があり、すべて目視で直したという苦い経験を持っている。「大田」が「太田」でなく「大田」なのは旧区制において「大森区」と「蒲田区」が一緒になったためである。大田区出身の方から「“森蒲区”にならなくてよかった」という実感のこもったご意見をいただいた。 ■高級住宅地から湾岸開発エリアまで 大田区というと「田園調布」を連想する方も多い。高級住宅街が多く所在する行政区であり、「田園調布」だけではなく、「洗足池」「雪が谷大塚」「御嶽山」「久が原」には瀟洒な邸宅が建ち並び、低層戸建て住宅をメインにした住宅街が形成されている。 その意味では隣接する品川区には投資目線の物件が多く、タワーマンションメインの開発エリアが多いのに対し、住居系用途地域が指定されているエリアが多い大田区は、低層マンションと邸宅型一戸建てのイメージが強い。しかし湾岸エリアや区南部を中心に開発は盛んであり、マンション供給も多い。
大田区を通る沿線は主として7線で、JR京浜東北線、都営浅草線、東急東横線、東急池上線、東急目黒線、東急多摩川線、京急本線である。データ数の関係で「洗足池」「御嶽山」や「久が原」は表データがないが、これらの駅周辺では建築用途規制の関係で、そもそもマンションの供給が少ない。近年の価格高騰によって、マンション供給は区南部の「蒲田」「京急蒲田」「六郷土手」など京急本線沿線で盛んになっている。 ■“お買い得な駅”の「蒲田」も利回り低下か 大田区も他の区と同じように新築と中古いずれも価格上昇が著しいため、各駅の表面利回りは低い状況となっている。交通利便に恵まれ、西に山王という高級住宅地を持つ「大森」はその代表格で、新築時の坪単価は491.4万円と500万円目前となっている。そのため表面利回りは築10年物件においても3.39%と低くなっている。概して東急線沿線は表面利回りが低い傾向となっていて、築年を経ても3%台や20年になってようやく4%台になる駅が多い。あまり大きなリターンを期待するのが難しい現状だ。 かつてはリターンの大きい“お買い得な駅”の常連であった「蒲田」も、駅舎の建て替え計画などの影響もあり、近年の価格上昇を受けてあまり表面利回りの優位性を感じられなくなっている。新築時も4.16%、築20年も4.36%と決してお買い得とは言えない。 周辺ではいわゆる「蒲蒲線計画」などさまざまな交通インフラの再整備や駅前の再開発が行われていて、価格上昇が顕著となっているため、相対的に割安となっている京急本線沿線が注目を集めている。ただし、このエリアも価格上昇により、「京急蒲田」では新築時の表面利回りが3%に低下するなど収益力が悪化する傾向が見られる。 ■井出さんの注目の3駅とは? ★★★東急目黒線「大岡山」 駅至近に東京工業大学が、駅上には病院があり、周辺に商店街もある。学生街ならではの賑わいがあり、東急目黒線と多摩川線の2線が利用可能である。再開発計画の有無などに関係なく、利便性の高い生活が得られる人気駅で、居住ニーズがつねに高く空室リスクが小さい駅と言えるだろう。周辺には住宅地が広がり、賑わいと落ち着きを兼ね備えた駅である。 ★★都営浅草線「馬込」 再開発計画のある隣駅「西馬込」より若干ではあるが割安感が出てきた。「馬込」駅の南側から山王地区に至る区域には第一種低層住居地域が広がり、戸建て中心の住宅地となっている。国道1号線沿線に駅があり道路利便を含め交通利便性は高く、羽田空港へのアクセスも良好なので、飛行機を使う出張の多いビジネスマンのニーズが高い。 ★京急本線「京急蒲田」 異様に長い駅舎(ホーム)と国道とが織りなす立体構造が話題となっており、“蒲田要塞”の異名を取る「京急蒲田」は、前述2駅とまったく異なり、高度利用されたマンションの多い駅である。「蒲蒲線計画」の浮上でにわかに高額化したが、開業時期はしばらく先と見られ、高額な物件を避けるスタンスが求められよう。それを踏まえて考えれば、空室率は総じて低く投資適性は高い。 井出 武(いで・たけし)/1964年東京生まれ。1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。2001年東京カンテイ入社、現在は市場調査部執行役員兼上席主任研究員兼東京カンテイマンション図書館館長。不動産マーケットの調査・研究、原稿執筆、講演業務等を行う。テレビ、ラジオ等に出演多数。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
井出 武