強くて勝負強く、巧い。青森山田にとって、新たな歴史を積み上げる一歩
第102回全国高校サッカー選手権は青森山田(青森)の優勝で幕を閉じた。2年ぶり4度目の優勝を果たした常勝軍団の戦いぶりはまさに“王者”。準々決勝で同じU-18高円宮杯プレミアリーグEAST勢の昌平(埼玉)を4-0で下し、最も強豪校が集まる激戦区を勝ち抜けて国立の舞台へ歩みを進めた。準決勝もプレミアリーグ対決となったが、市立船橋(埼玉)をPK戦で撃破。早々に得意のセットプレーから先制しながら、後半は相手の術中にハマり、1-0で迎えた終盤に同点に追い付かれた。伝統の堅守を破られ、嫌な雰囲気が漂ったが、PK戦では守護神・鈴木将永(3年)が2本をストップ。4-2で制し、しぶとく勝ち上がった。そして迎えた決勝。近江(滋賀)を寄せ付けずに3-1で勝利し、凱歌を挙げた。 【フォトギャラリー】青森山田 vs 近江 青森山田の戦いを振り返ると、攻守で頭ひとつ抜きん出ていたのは間違いない。昨秋に黒田剛前監督(現・町田監督)からバトンを受けた正木昌宣監督の下で新たなスタートを切ったが、春先は未熟で思うようにいかない時もあった。昨季のレギュラーはMF芝田玲(3年)、CB小泉佳絃(3年)のみで、昨季の選手権でベンチに入っていた選手もGK鈴木やCB山本虎(3年)など数える程しかいない。経験値は例年に比べれば乏しく、少なくともその時点では選手権とU-18高円宮杯プレミアリーグを制して2冠を達成できるチームではなかった。キャプテンを務める山本は言う。 「(1月下旬の東北新人戦で優勝した)春先は負けなかったけど、(プレミアリーグ4節)でFC東京U-18に0-2で負けてダメージを負った。そこからインターハイでは3回戦で明秀日立(茨城)に敗れてまたダメージを喰らって。そこが本当にきつい時期だった」 特にインターハイの敗戦はらしくない負け方だった。押し込みながらもスコアレスで迎えた後半アディショナルタイムに均衡を破られ、0-1で敗戦。勝負強い青森山田にとってはらしくない負け方であり、衝撃は大きかった。チームはバラバラになり、一歩間違えば崩壊してもおかしくないような状態。正木監督も当時の雰囲気をこう回想する。 「今年は常にみんな楽しそうにやっていたけど、唯一暗かったのがインターハイで敗れた後のフェスティバル。本当に暗かったので」 また正木監督自身もインターハイの敗戦を自身の未熟さが故の出来事だと捉え、「正直、僕の経験不足が出た試合。勝てる試合ではあったので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。あのチームを勝たせられなかったのは、選手じゃなく、自分が原因だと思っていた」。 ここでチームは一度バラバラになりかけたが、もう一度原点に戻り、サッカーを楽しみながらいかに勝ち切るかを模索。正木監督も原因をしっかり受け止め、夏の敗戦を今後に生かすことを誓ったという。 「勝ち急がない。欲張ると良い事はないんです。チームが同じ方向を向く」ことを肝に免じ、選手たちには「もう1回楽しくやろう」と言葉をかけて立て直しを図った。そこから再び軌道に乗ると、プレミアリーグも最終節で優勝を決め、年間王者に輝いた。そして、迎えた選手権は飯塚との初戦(1-1/5PK3)こそ苦戦を強いられたが、以降は勝負強さを発揮。縦に速い攻撃をベースにゴールを重ねた。青森山田と言えば、フィジカル能力の高さが毎年のようにクローズアップされるが、今季は前線にテクニカルな選手が揃う。そうした選手の特性を生かし、ロングスローやロングボールに頼らない戦い方ができていたのは今年の強み。芝田が中盤の底で配給役を担い、左のMF川原良介(3年)と右のMF杉本英誉(3年)が両翼から仕掛けるカウンターは破壊力抜群だった。大会のトップスコアラーに輝いたFW米谷壮史(3年)が得点源として躍動した点も含め、強さと技術に裏打ちされた攻撃陣は凄まじかった。 伝統の守備も夏に比べると、簡単には崩れない安定感があった。MF菅澤凱(3年)が中盤の底でセカンドボールを拾いながらピンチの目を潰すし、それでもゴール前に入られた際は山本と小泉のCBコンビが攻撃を跳ね返す。両SBもハードワークを厭わず、献身的なプレーでチームを支えた。さらに目を惹くのはファウルの少なさで、今大会は一度も警告を受けていない。フェアに戦いつつ、5試合で僅か3失点に抑えた守備陣の奮戦も優勝に欠かせない素養だった。 「今年のチームには臨機応変に戦うために柔軟性を求めてきた」という指揮官の想いは結実し、最後の冬に歓喜の瞬間を迎えた。フィジカル能力の高さは目を惹くが、それに頼らないサッカーができた点が優勝の原動力になった。強くて勝負強く、巧い。青森山田にとって、新たな歴史を積み上げる一歩になったのは間違いないだろう。 (文・写真=松尾祐希)