『仮想儀礼』写真提供＝NHK

　リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第4回の選者は、ドラマウォッチャーの明日菜子。（編集部） 【写真】映画版とはまた違う面白さを引き出したドラマ版『舟を編む』 1.『仮想儀礼』（NHK BS） 2.『舟を編む』（NHK BS） 3.『3000万』（NHK総合） 4.『ケの日のケケケ』（NHK総合） 5.『燕は戻ってこない』（NHK総合） 6.『虎に翼』（NHK総合） 7.『アンメット ある脳外科医の日記』（カンテレ・フジテレビ系） 8.『Eye Love You』（TBS系） 9.『全領域異常解決室』（フジテレビ系） 10.『Shrink―精神科医ヨワイ―』（NHK総合） 　ベストドラマ10選、今年は特に難しかった！　その中でも圧倒されたのは『仮想儀礼』。男二人が金儲けのために立ち上げた宗教は、次第に本人たちがコントロールできないほどの組織になる。物語をどんどん広げていく中で、最終的には「なぜ人は宗教を求めるのか」「救いとはなにか」というシンプルな問いにたどりつく。主演男優賞を選ぶならば、この物語の強烈さに負けなかった青柳翔と大東駿介を推したい。 　同じくNHKBSで放送された『舟を編む』は、映画版と異なり、ファッション誌から辞書編集部に異動した岸辺みどり（池田エライザ）が主人公。正統派お仕事ドラマでありながら、ファスト社会や資本主義社会に抗う人たちの物語にもなっていた。さまざまな表現がゆきかうSNS時代の今だからこそ、言葉の大切さを噛みしめたくなる一作。 　NHKの脚本開発チーム「WDRプロジェクト」の第1作目である『3000万』は、共同執筆の新たな可能性を示した。ある日交通事故に巻き込まれた家族が現金3000万を手に入れる。かなり突飛な設定だが、根底には令和のシビアな現実が横たわっていた。作り手たちの思いを託されたラストシーンの安達祐実は必見。 　第47回創作テレビドラマ大賞受賞作品『ケの日のケケケ』は、脚本家・森野マッシュのデビュー作。感覚過敏のあまね（當間あみ）が、自分のご機嫌を取りながら、この世界と共存するためのちょうど良い塩梅を探っていく。「求めているのは寛容さではなく、自分のご機嫌をとるための自由」という台詞は、長年燻っていた気持ちを掬われたような嬉しさを感じた。 　桐野夏生の原作小説を実写化した『燕は戻ってこない』には、毎週ヒリヒリさせられた。『虎に翼』と同時期に放送されたことにも意味があった。登場人物の誰に共感するかではなく、自分の軸はなにかを問われつづけた物語だ。 　2024年を象徴する一作といえば『虎に翼』。伊藤沙莉が演じる朝ドラヒロインの頼もしさたるや！　半年にわたる長丁場、毎朝前のめりになってドラマを見た。あらゆる層に目を向けた吉田恵里香の脚本には、誰一人として“透明化”させたくないという強い意志を感じた。 　『アンメット』が回を重ねるごとに話題になったときは、一ドラマ好きとして嬉しかった。杉咲花や若葉竜也らキャストの好演に加え、視聴者を信じて“語りすぎない”作りに徹したことが、クオリティーを一気に押し上げ、テレビドラマの可能性を広げた。