問題解決は「ほしい結果」から考える シャープ亀山工場初の女性管理職が語る「風通しのいいチーム」に必要なこと
「解決志向」で、あらためて問題に向き合う
それから数か月後、管理職を対象にした研修会がありました。テーマは「活気のある職場にするために何をしたらよいか」。外部講師を呼んでの研修会でした。その研修会で、講師は開口一番、こんな話をしてくれました。 「従来の問題解決手法は、物やシステムに関する問題にはとても有効です。でも、人や組織の問題には向きません。何が悪かったのかではなく、どうなったらいいかという視点で考えることが大事です」 その言葉を聞いた瞬間、今まで抱えていたモヤモヤが消えて、目の前が明るく照らされました。この「解決志向」という考え方は、その後の私にとって大切な指針となりました。 それからしばらく経ったある日、緊急度の高いトラブルが発生しました。これまでに対応した経験のない若いメンバーは、現場で何をしたらよいかわからず、初動対応が遅れました。 次の日、私はチームメンバーを集めてミーティングをしました。トラブルの発生状況や原因、当日の対応内容について説明したうえで、「なぜ対応が遅れたか」ではなく、「何ができていたらよかったと思う?」と聞きました。すると、メンバーから次々と意見が出てきました。 「じゃあ、そのためにはどんなことができるだろう?」 そう問いかけると、「現場に表示をしよう」「図面も置いておこう」「チェックシートをつくろう」と、いろいろなアイディアが出てきました。
人に関わる問題は「ほしい結果」から考える
さらに、「ひょっとしたら今回のトラブル、前兆があったと思うよ」と、前兆としてよく見られる現象を説明し、「その現象を、より早くつかめるようにするには、どうしたらいいと思う?」と問いかけました。 ひとりのメンバーが、「普段から点検するときに、よく観察すれば見つけられます」と答えたので、「そのために何ができる?」と問いかけると、「点検表に追加します」「現場にも表示をしておこう。それは私たちの班でやります」と自発的に行動をしてくれるようになったのです。 みんな生き生きとしていました。ほしい結果を共有することで、犯人さがしのようなことをしていたときよりも、職場の雰囲気はよくなりました。 「どうなりたいか」を描いて、「そのためには?」「そのためには?」と考えていくと、さまざまなアイディアが出て、どんどん行動したくなります。その一歩一歩は小さいかもしれません。でも、確実にほしい結果に近づいていく実感がありました。 人に関わる問題は「何が問題だったか」ではなく「ほしい結果」に焦点をあてましょう。職場の雰囲気がよくなるだけでなく、チームが自発的に行動するようになります。 深谷百合子(ふかや ゆりこ) 研修講師/合同会社グーウェン代表。大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで工場の環境保全業務を行う。2006年、シャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えるが、仕事を任せられず、リーダーシップとは何かに悩む。失敗して萎縮する部下のフォローをする中で、自分らしいリーダーのあり方を見出す。2013年から部長職として中国国有企業との新工場建設プロジェクトに参画。その後、中国国有企業へ転職。動力運行部の技術部長として約100名の中国人部下を育成する。現在は、職場コミュニケーションの改善を主なテーマに、講演や研修を行っている。著書に『賢い人のとにかく伝わる説明100式』(かんき出版)がある。 協力:日本実業出版社 日本実業出版社 Book Bang編集部 新潮社
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