人や物資が限られる中で迫られる決断と葛藤…“2人に1人が高齢者”被災地・輪島市の福祉避難所の現実 心を病んでしまう職員も…【キシャ目線2024】
■人や物資が限られる中で迫られる施設の決断と葛藤…中には心を病んでしまう職員も
当然のことながら、もとの入所者のひとたちは利用料金を払って、施設で生活を送っています。一方で、避難者の人たちは無料で同じ施設内で暮らしていることになります。施設側からすれば、もとの入所者の人たちを抱えている分にはこれまで通りの収入はあるわけですが、それを言わば、諦める形です。しかし、それでもこちらの福祉避難所では困っている人たちを助けたいということで受け入れを進めることに舵を切ったということです。 ただ、はじめのうちは施設側の“厚意”で入所者と避難者に同じサービスを提供していましたが、災害時で物資や人手も限られる中、ずっと同じことを続けていくには限界が訪れます。次第に入所者と避難者で同じ料理やサービスを提供できず、負い目を感じて、結果として、精神的にまいってしまう職員も出てきてしまったといいます。 そこで、持続可能な福祉避難所の運営のために、このように方針転換したといいます。 ・職員らはまずは入所者を優先すること。 ・避難者らには施設の職員ではなく、応援で来ているチームの方で対応すること。 ・避難者らの食事やサービスはできる限りで構わないことを許容する。 結果として、今では入所者と避難者、それぞれのサービスがうまく回るようになってきたということです。 元々、輪島市は地震が起きた時に、福祉避難所を開設してもらえるよう、地震前には25の施設と協定を結んでいました。しかし、蓋を開けてみれば、発災から10日以内に福祉避難所として開設できたのはわずか3か所でした。 輪島市の担当者は取材に対し、「施設自体が建物被害を受けていたり、職員も被災して出勤することが難しかったりするという話はよく聞きます。想定外に地震の被害が大きく、協定を結んでいるからと言って、施設側に福祉避難所を開いてくれと強くお願いすることは難しい」と話していました。
■「避難所が高齢者であふれる光景は今後、全国どこでも起きうる」 福祉避難所のあり方再確認を
記者が取材をしていて、印象に残った言葉がありました。先ほどの紅谷医師の言葉です。 「今、日本では各地で高齢化が進んでいる。能登半島で起きていることは高齢化の進む日本では近い将来、どこでも起きうることだ」 自分たちが住んでいる場所では、10年先、30年先も災害級の地震は起こらないかもしれません。でも、もしかしたら、きょう起こるかもしれません。これだけは本当に誰にもわかりません。 そうした中で、1人でも多くの“災害弱者”の命を救うために、とりわけ地震の揺れや津波による直接死ではなく、避難所生活での持病の悪化など“関連死”での死者を減らすためには、こうした福祉避難所のあり方をそれぞれの地域で改めて考え直す必要があります。 読売テレビ 小川典雅記者(プロフィール) 東日本大震災など数多くの地震・水害の被災地を取材。中学時代を石川県で過ごした。今回の能登半島地震では、避難所や断水の取材のほか、専門家による超近距離津波の研究などにも同行。