「最後はやっぱり沙織さんと…」勇気を振り絞って伝えた最初で最後の〝お願い〟心震わせるエースへの想い【迫田さおりさんコラム】
人の心を動かす「エース」にふさわしい存在
忘れられない試合があります。リオ五輪の出場権が懸かった世界最終予選。指を負傷し先発を外れていた沙織さんがタイ戦で途中からコートに立ちました。奮い立った私たちは最終第5セットに6点差を8連続得点でひっくり返して逆転勝ちしました。心残りもあります。マッチポイントを握ってから、沙織さんが丁寧に上げてくれたトスを私が打ち切れず、相手のブロックに捕まってしまいました。あれは決めたかった。 私にとって常に先頭を走ってくれる存在でした。まばゆい「目印」があったからこそ、最後まで走り切ることができました。何か一つでも超えたい一心で日々過ごしてきた結果、同じペースではなくとも、自分に限界を設けずに前を向いて競技人生をゴールすることができました。17年3月に沙織さんが引退会見を開いてから2カ月後、私はユニホームを脱ぎました。 「最後の1点を任せられる」と誰からも信頼される選手がエースだと、私は思います。コートに立つまでの生活から努力を積み重ねている人…沙織さんのような選手こそ、人の心を動かす「エース」にふさわしいのではないでしょうか。 現役を退いた今はなかなかお目にかかる機会がありません。交流サイト(SNS)で近況を知るぐらいです。家族との楽しそうな表情、周囲を引き付ける人柄と相まってほっこりします。そういえば、笑顔も見習ってみようとチャレンジしたことがあります。結果は…沙織さんはやはり偉大でした。(バレーボール女子元日本代表、スポーツビズ所属)
西日本新聞社