燃料電池自動車は普及するか? 進む水素ステーションの整備
「究極のエコカー」といわれる燃料電池自動車(FCV)。7月初めにホンダと米GM(ゼネラルモーターズ)が基幹技術などの共同開発で提携するなど、自動車メーカー各社は2015年ごろからのFCV本格発売を目指し始めています。そこで注目されるのがFCVの燃料となる水素を供給する「水素ステーション」の普及です。エネルギー事業者10社は2015年までに水素ステーションを国内に100カ所整備、さらに2025年には1000カ所程度の設置を掲げています。ガソリンスタンドのように水素ステーションも全国各地に広がっていく可能性はあるのでしょうか。
日本メーカーのFCV技術は世界トップクラス
FCVは、「水素」と空気中の「酸素」を反応させて電気を起こす発電システムを使用してモーターにより走行します。エネルギー効率がよく、化石燃料を使わず、排出されるのも水だけのエコカーとして以前から期待されていました。燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)では2025年にはFCVは200万台程度にまで拡大すると想定しています。 日本メーカーはFCV技術で世界トップクラスともいわれ、今年になって、ホンダ・GMのほか、トヨタと独BMW、日産自動車と米フォードモーター、独ダイムラーもそれぞれ手を組んでおり、FCVをめぐって動きが活発になっています。 エコカーとして先行していた電気自動車(EV)は充電時間が数時間単位で、ガソリン車と比べかなり長く、インフラ整備が進んでいないのが現状でした。一方FCVの充てん時間は3分程度なうえ、一回の充てんによる航続距離も500-800キロと「EVよりはるかに長距離走行に向いている」(メーカー関係者)と指摘され、インフラとしては水素ステーションの方が現実味があるといわれています。
進む水素ステーションの整備
現在水素ステーションは全国に17カ所。いずれも社会実験用で、一般の人は利用できません。今年に入ってJX日鉱日石エネルギーは神奈川県海老名市のガソリンスタンドに併設する水素ステーションを設置。一般向け水素ステーションの整備に向けて積極的に動いています。JXは「当面40カ所の整備を目指している。今後コストダウンがどれだけできるかを研究したい」と話しています。 一般的なガソリンスタンド(GS)の整備には約1億円の費用がかかるといわれますが、水素ステーションのコストはGSの5倍程度はかかるとされています。このため経済産業省は 国が半額を補助する事業を今年度から始めました。今年度はJXのほか東京ガス、岩谷産業などの事業者が19カ所の整備で交付決定を受けており、経産省はFCV本格販売が始まる2015年に向け補助を続ける方針です。 水素ステーションの整備は4大都市圏を先行して進められています。その中で大阪府は、水素ステーションの整備に必要な水素の圧縮技術や専用のバルブなど、関連部品を作る中小メーカー向けに補助金を出す事業をスタートしています。府は2004年に西日本で初めて公用車にFCVを導入するなど水素インフラに積極的。「大阪は大手だけでなく、中堅、中小の水素関連技術メーカーは多い。近隣自治体と連携し、普及をけん引したい」としており、今後の地方自治体の動きにも注目されます。 課題もあります。水素は天然資源ではないため、さまざまな方法で製造しなければなりません。現在は、石油精製や製鉄などの生産で副次的に発生する製造水素がよく使われていますが、水素ステーションのようなインフラ設備に供給するには、さらに安定的な水素の製造が必要です。また一般ユーザーが購入できる価格帯でなければ普及は難しくなります。「ガソリン価格並みにするための政府の補助などがなければユーザーは使ってくれない」という声もあります。また、「水素ステーションに大量の水素を在庫しておくにはさらなる水素圧縮技術も必要になる。コスト低減や圧縮技術がついてこなければ、メーカーは水素以外のエネルギーシステムにシフトしかねない」(自動車メーカー技術者)という指摘もあります。 安倍晋三内閣は成長戦略の一環として規制緩和などによるFCVの「世界最速普及」方針を示しています。日本がFCV先進国となるためには政府や地方自治体の支援がどれだけ進むかがカギになりそうです。