健康診断は日本だけのフシギな慣習! 健診で予防できないどころか命が縮まることも
健診を受けても受けなくても死亡率に差がない
その後も、欧米では健診の効果を検証する臨床試験がいくつも行われています。欧米で健診の効果を調べた14の臨床試験の計18万人のデータを解析した論文が2012年に発表されていますが、健診を受けた人と受けなかった人では、全体の死亡率、心臓病、脳卒中、がんによる死亡率に差は見られませんでした。 30~60歳の6万人を10年間追跡調査したデンマークの調査でも同じような結果となりました。健診を受けたグループは、健診に加えて、5年間に4回の健康相談を行い、リスクが高いと判断された人には生活習慣や運動、禁煙のグループ指導も行いました。にもかかわらず、健診を受けない人と、心臓病や脳卒中の発症率、全体の死亡率に差がなかったのです。 これらの研究結果から考えると、健診は病気を予防する効果が見られないばかりか、医療の厳しい管理でかえって命を縮める可能性もあるということです。タダより高いものはないと言いますが、実質タダの健診を受けたために、高い代償を払うハメになったとしたら笑うに笑えません。
基準を厳しくすれば、患者が増えるカラクリ
健診でメタボ症候群に該当する人は予備軍も含めて約1671万人(2022年度)にのぼります。これは、メタボ健診の対象となる40~74歳の人口(約5900万人)の約4人に1人に該当します。この人たちが、医者から処方された薬を飲み、その後、何十年も薬を飲み続けることになる、まさに「薬漬けの医療」にどっぷり浸かっていくことになります。節制を基本にした生活指導も、ジワジワと元気を奪い、老化を進めていくでしょう。 24年3月、新潟大学の研究チームが、メタボ基準の女性の腹囲を現在の「90cm」から「77cm」にすべきという新基準案を提案しました。「脳卒中や心筋梗塞を起こした女性の9割、男性の7割が現在の基準値ではメタボには該当せず、リスクが見逃されていた」というのが理由のようです。たしかに、かける網を大きくすれば、リスクの見逃しは少なくなります。しかし、一方で、治療の必要がない健康な人もたくさん網にかけてしまうことの害については、ほとんど語られていません。 メタボ症候群に該当する人の数は2020年度の約1715万人をピークに、高齢化や人口減少にともなって、50年には約1330万人に減少するとの推計があります。基準値を引き下げるという提案は、メタボ患者の数を確保しておきたいという策略に思えるのは、私だけでしょうか。これまでも、血圧、コレステロール値、血糖値などの基準値がシラッと引き下げられてきた経緯を考えるとなおさらです。 メタボ健診を受けるかどうかは、個人が判断していいことです。しかし、すすめられるままに健診を受け、すすめられるままに治療を始めてしまうその先は、ヨボヨボ道に続いているかもしれないことは覚えておいてほしいと思います。 ●こちらもオススメ あなたの「ヨボヨボになりやすい」度を判定! 医者にヨボヨボにされやすいのはこんな人!
和田 秀樹(精神科医)