セブン、創業家提案は「悪手」 ユニゾ破綻が示す“借金買収”の危うさ
セブン&アイ・ホールディングス(HD)がカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受ける――。日本企業とその経営者たちに衝撃を与えた事案は、セブン&アイの創業家側が事実上の対抗案を出すという新たな展開を見せている。 【関連画像】セブン&アイはカナダのコンビニ大手、ACTから買収提案を受けた まずはこれまでの流れを振り返ろう。 セブン&アイは8月、一部報道を受け、ACTから法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていると公表した。いったんは「当社の本源的価値などを著しく過小評価している」などと突っぱねたものの、ACTは買収金額を引き上げて再提案している。その後、11月にはセブン&アイの創業家出身である伊藤順朗副社長と、創業家の資産管理会社である伊藤興業(東京・千代田)も買収計画を提案していることが明らかになった。広い意味でMBO(経営陣が参加する買収)に当たるとされる。 この件に関し、セブン&アイは独立社外取締役のみの特別委員会を立ち上げている。特別委の委員長は取締役会議長でもあるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が務めており、ACTの提案と創業家の提案、さらに現経営陣が打ち出している成長戦略を続けた場合の3つのシナリオを中心に検討。どれが企業価値を最も高められるのか精査しているという。 「買収防衛したかったのだとしたら今回の創業家による提案は悪手だ」。こう話すのは企業のM&A(合併・買収)に詳しい南山大学経済学部の川本真哉教授だ。 川本氏によると、ACTの提案だけであれば現経営陣が打ち出している成長戦略を推し進めることで「企業価値はまだ上がる」などと未実現の価値を訴え、対抗することができた。だが今回、創業家からの提案が明るみになったことによって「セブン&アイは売り物だ」と宣言しているように見えるという。 「特別委の判断として『既存のマネジメントの施策が評価できるので、ACTの提案は価値不相応だ』などと断ると思っていた。今後は価格で勝負することになるだろう」(川本氏) 重要になるのが特別委の意見だ。川本氏は、現状ではACTの提案と創業家の提案を別個に検討しているように感じられるとした上で、「少数株主の利益保護の観点から、オークション形式を取る覚悟があるのかどうかが問われている」と指摘する。オークションになれば買収価格の上昇につながり、高値が付いた方に売ることで株主にとって利益になるからだ。 また創業家の提案では資金が問題になる可能性もある。M&A調査のレコフデータ(東京・千代田)によると、日本企業が関わるM&A案件で過去最大額となっているのは、武田薬品工業が2018年に発表したアイルランドの製薬会社シャイアーの買収だ。金額は約6兆9000億円になった。 一方、セブン&アイの時価総額は6兆~7兆円に上る。プレミアムやオークション形式で価格がつり上がる可能性を踏まえれば、10兆円に迫る資金が必要になるかもしれない。