「手洗いに数時間」「4日と9日は学校に行けない」 有名俳優や元トップアイドルが相次いで公表…専門医が明かす「強迫症」の知られざる実態
10年間で56%の患者が寛解
強迫観念の中には「数字に対する強いこだわり」というものもある。不吉とされる4や9が付く4日、9日、14日、19日……には学校へ絶対行けない患者もいる。こちらも日常生活に支障を来してしまうのは言うまでもない。 強迫症の罹患率はおおよそ50人に1人。まさに「日常生活に支障を来した」患者の数だ。同じ病気の家族がいる患者も認められるが、遺伝や神経伝達物質など、病因や病態は明らかにはなっていない。 「治療は薬物療法と認知行動療法の2つが第一推奨です。薬物療法では、抗うつ剤の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬となり、患者さんの不安を軽減するのが主な効果です。認知行動療法は様々な技法が含まれる精神療法ですが、強迫症の治療に用いられる技法は『曝露反応妨害法』となります。『汚いと感じているので手を洗う』という症状の患者さんなら、我慢できる範囲で手を洗う時間を短くしたり、手洗いの範囲を狭め、不安が徐々に小さくなっていくことを繰り返し体験します。当講座の研究データでは、薬物療法と認知行動療法などの治療では、10年間で56%の患者が寛解するという結果です。つまりすべての患者さんに当てはまるわけではありませんが、“不治の病”ではない患者さんもいます」(同・向井医師)
薬物療法だけの治療
ただし、大きな問題もある。まず日本で強迫症の治療の適応を取得している抗うつ剤は2種類しかない。副作用に悩まされる患者も存在することから、今後、選択肢が拡充されてほしいと願っているという。 「強迫症の認知行動療法の場合、全国で数カ所しか実施できる病院がありません。本来は薬物療法と認知行動療法の併用が最も寛解に至ることが期待できるにもかかわらず、大半の患者さんは薬物療法だけの治療になってしまっています」(同・向井医師) 強迫症に対する正しい知識が広まることは、治療にあたる医師や患者、患者の家族など関係者にとっても歓迎すべきことだという。 「強迫症の患者さんは、職場や学校など、対人交流が多い場面でも強迫症状で困っているケースが少なくありません。もし周囲の方々が強迫症に関する正しい知識を持っていれば、本人への正しいサポートにつながり、それが受診などの適切な行動につながる可能性が期待できます。ぜひ、映画という媒体から強迫症の症状や苦悩を共有してもらいたいと思います。治療を行いながらも福原監督が作品を完成させただけでも素晴らしいことです。『普通』を懸命に装うことや手洗いに振り回される日々の生活など、映画に描かれる各シーンは、まさに強迫症患者さんの生活を捉えているものでした。福原監督の映画を見ていただくことにより、強迫症を知っていただけるいい機会になると考えています」(同・向井医師) デイリー新潮編集部
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