ロシアが進めるハイブリッド戦争、NATO東部国境は第2戦線の様相
(ブルームバーグ): 5月23日午前0時を少し過ぎた頃、エストニアとロシアを隔てるナルバ川で、エストニアが設置した国境線を示すオレンジ色のブイを覆面をかぶった数人の男が撤去し始めた。この川はエストニアとロシアの国境だけでなく、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの境界でもある。
5月下旬の北ヨーロッパは、この時間でも薄日が差す。このためロシア側による撤去の動きはエストニア側に丸見えで、必ずしも夜陰に紛れて行うことが意図されてはいなかった。エストニアはバルト諸国、さらには西側全般に対するロシアの明らかな意思表示だと受け取った。
これ以外にも、ロシアおよびその同盟国であるベラルーシと3550キロに及ぶ国境を接する国々に対して、挑発や不安をあおる行為が続いている。NATOの集団的対応を発動させるような従来型の攻撃には概して至らないものの、ロシアがウクライナに全面侵攻を開始した2022年2月以降、こうした類いの行動が頻度を増している。
実際、バルト諸国は西側とロシアとの第2戦線の様相をますます濃くしている。フィンランドのストゥブ大統領は今月14日にヘルシンキで開かれた外交政策フォーラムで、「ロシアは現在、2つの戦争を進めている」と指摘。「1つは動的な、従来型のウクライナでの戦争だ。もう1つは欧州と西側でのハイブリッド戦争で、世論に影響を及ぼしたり、われわれの安全意識をある程度動揺させたりすることが狙いだ」と語った。
移民の集団を大量に国境に送り込む、衛星利用測位システム(GPS)信号を妨害して航空便を混乱させる、犯罪者を雇ってささいな破壊工作をさせる-。フィンランドやバルト3国、ポーランドなどが報告する、市民を動揺させることが目的のロシアが行っているとみられる事例は増え続けている。
各国ともロシア対応で苦労した歴史を抱えるが、いまや全てNATO加盟国だ。これら諸国は総額35億ドル(約5560億円)を拠出してロシアとの東部国境を強化する計画を打ち出し、ハイブリッド戦をワシントンで来月開かれるNATO首脳会議の議題とするよう要請した。