「圧倒的な世界観」「美麗」と話題 『ELDEN RING』『Bloodborne』のコンセプトデザイナーgehnが語る 画集『ORACLE』の制作秘話
「もう一押し……何かできませんか?」決して妥協はしない。アーティストと編集者が二人三脚で歩む本づくり
――物語画集づくりにおいて、お二人が特にこだわったことはありますか? gehn:あるとき、Kさんからこんな話があったんです。 「物語の導入となる設定も作れたし、各章の内容を伝えるあらすじも仕上がった。ただ……、この物語全体をまとめ上げる“筋”のようなものを、冒頭で設定できないですかね? 読者を最初からすっと引き込むような、背骨になるようなものがあるといいんですが……」と。私からすると、「えっ? この前はこれでOK! って言ってたはず。なのに今日はさらに別のアイデアを要求してくる……」という思いはあったんですが(笑)。 そこで生まれたのが、本文1ページ目のイラストです。羊飼いの少年が洞窟の中を覗いている。この羊飼いは、洞窟の奥をまっすぐに見ている。じつは、彼はこの物語画集の読者、という設定です。洞窟の奥にある巻き物が、不思議な力で、少年(=読者)を物語画集の世界にいざなって……「ORACLEの世界にようこそ」と呼び込んでいるのです。 カバーの明るくて壮大な雰囲気から一転、ページをめくった瞬間、この洞窟の中にどんっと放り込まれる。だんだんとこの世界の深いところに入ってくような予感を演出しました。 Kさんは、「あとちょっとで、もっとよくなるんですよ」というような、ひと押しをよくしてくるんです(笑)。でもその結果、僕も、「冒頭に力を入れて、本全体が締まったな」と感じています。 編集K:1ページのこの「洞窟を覗く羊飼い」の絵が上がってきたとき、私はもう本当に狂気乱舞したんです。「よし、これで自分の仕事は終わった。いい本になるぞ!!」と。 何がうれしかったかというと、ずっとgehnさんと「こんな本にしたいよね」と対話して練り上げてきたコンセプトが、たった一枚の絵で表現されていたことです。この「洞窟の絵」には文字がないんですが、「これから何かが始まる」というのを強く予感させる。「お話、はじまりはじまり~」という声が聞こえてきそうです。すると、「どこへいざなってくれるんだろう?」と、もうワクワクしてくる。期待感が上がる絵なんですよね。それが、悩んでいた冒頭で用意できたことで、もう達成感でいっぱいになり、「gehnさん、お疲れ様でした!!」という思いでした。 gehn:それはうれしいですね。僕自身も気に入ってるんですよ、この導入の作品は。 ここで、こだわっている点がもう一つ。 現実の動物である「羊」や「少年」がいるし、けっしてファンタジーじゃない。物語は現実的なところから始まるわけです。その後、ファンタジーが展開するにしても、やっぱり「現実」に足がついた内容にしていたいんです。そして、ゆっくりといつの間にか、ファンタジーに吸い込まれていく……というような。 世界を構築していく際に、「地に足がついたファンタジー」って、僕の中では、すごく重要なテーマなんですよね。「どファンタジーじゃない」というか……。 「こういう光景って、ひょっとしたら、中世ヨーロッパとかっていう時代にはあったかも」と感じられるようにしたい。そこにはいつも、こだわっていますね。 ――作者のこだわりと編集者の想いがあって、それが一冊の本を作るにあたって「同じ方向」を向いてきたからこそ生まれた作品なんですね。