【ネタバレなし】『陰陽師0』奈緒演じる徽子女王。<日本史最強クラスの悪霊>平将門の乱を乗り切り「三十六歌仙」にも選ばれ…なぜ彼女は<特別な姫>になったのか
◆音楽家としての才 その歌集『斎宮女御集』の前半のほとんどは、村上天皇との贈答歌です。 最も古いものは村上天皇との後朝(きぬぎぬ)、つまり結婚の翌朝に交わし合った歌でした。その時点ですでに歌人として完成していて、村上が彼女の和歌を重視していたことがわかります。 また彼女自身も、源博雅(映画では染谷将太さんが演じています)が歌を詠みあげる役を務めた歴代最高の歌合イベント『天徳内裏歌合』をはじめ、宮廷和歌文学が花開いた村上朝を支えた歌人として、自ら歌合を主催。多くの歌人のスポンサーになっていました。 さらに注目すべきは、音楽家としての才能です。彼女の代表的な歌に 「琴のねに峰の松風かよふらしいづれのをよりしらべそめけむ」 (琴の調べに、峰の松風の音が通いあっているようだ。どの琴の緒とどの山の尾から出始めた音が響きあっているのだろう。) というものがあります。 「徽子女王は村上天皇から直接手ほどきを受けた琴の名手」とする系譜もあるのですが、実は彼女はそれに留まらないレベルの音楽家だったと言えます。
◆箏も琴も芸術的に演奏 現在の「琴(こと)」、つまり13弦の琴は平安時代には「箏(そう)のこと」と呼ばれ(琴の音楽を「箏曲(そうきょく)」と呼ぶのはその名残)、それとは別に「琴(きん)のこと」という7弦の琴がありました。 箏には琴柱という音階を決めるパーツがありますが、琴にはなく、弦を指で押さえて音を決めます。つまり、箏は決まった音を弾くピアノに近く、琴は自分で音を探すバイオリンに近い楽器でより難しく、反面、自由に音を動かせる楽器でした。 さらに箏は身分の高い女性も弾く楽器でしたが、琴は古代中国では、社会の秩序を表現する楽器とされ、皇帝や「君子」と呼ばれる男性の弾くものでした。 たとえば『源氏物語』で、光源氏が須磨に退去した時、秋の夜の徒然に弾いたのは琴。琴は紫式部の時代には主に皇族が弾く楽器で、廃れかけていたとも言われます。 一方『斎宮女御集』には、琴の音に惹かれた村上天皇が彼女の元に渡ってきても気にせず弾き続けた、というエピソードがあります。徽子女王は箏も琴も芸術的に演奏できた、男性以上の音楽家だったと言えるでしょう。
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