漬物作り継続へJA・自治体が支援 改正法施行見据え「食文化守る」
いぶりがっこ産地「継続1割」に衝撃
6月の改正食品衛生法完全施行を見据え、自宅などで漬物を作ってきた農家が設備改修ができず、製造をやめるのを防ごうと、支援に乗り出す自治体やJAが出てきた。施設や機械の導入費用の補助、改修や補助金申請の手続きの相談に応じる職員の配置など、補助金と人的支援の両面で農家の意欲をつなぎ留める。 【動画】施設改修や申請手続きの相談に応じる職員 「いぶりがっこ」の産地として有名な秋田県横手市は、県の補助に上乗せするだけでなく、漬物生産者が改修手続きを個別に相談できる職員を置いて支援体制を整えた。生産者の多くが高齢で、煩雑な手続きを敬遠して漬物製造をやめてしまわないよう後押しする。 市が2021年に漬物生産者158人を対象にしたアンケートで、同法の完全施行後も漬物を作り続けたい人は10人にとどまった。 製造を続ける人が1割にも満たない事態に危機感を抱いた市は、手厚い支援を展開。漬物に特化した県の補助制度に上乗せして、設備の導入や改修を補助。22年に市の職員を専属の相談員として配置した。
製造・保管施設の共同利用も
施設の共同利用も進める。家庭で作った漬物を持ち込んでパック詰めできる市の施設に、漬物の製造・保管場所を増設し、共同利用できるようにした。市の給食センターだった施設を指定管理する道の駅は、出荷者が共同でいぶりがっこを作れるように改修した。 努力が実を結び、23年5月の同様のアンケートで、187人のうち約半数の92人が製造継続の意向を示した。 相談員で市食農推進課の高橋嘉さん(65)は「漬物を作り続けたい生産者の背中を押し、アドバイスする人がいるのが大切」と話す。水道の蛇口を変えたり、汚れても拭きやすい内装にしたりするなど、小規模の改修で済む場合があることも説明し、取り組みやすくする。 県と市の補助を受け、自宅敷地に作業小屋を新設した高橋利恵子さん(61)は「相談員のおかげで解決した。引退するベテランの味を引き継いで種類を増やしたい」と意気込む。
「水かけ菜漬けは財産」加工場整備
漬物を作る農家らを支援するJAも出てきた。静岡県のJAふじ伊豆は、特産の水かけ菜漬けの生産維持のため、御殿場市にあるみそなどを作る加工センターを共同加工場にする。改修が難しい小規模生産者の支援につなげる。 共同加工場は、水道の蛇口の変更や床の改修などをして2月にも稼働させる方針。費用は、同市に働きかけてできた補助金を活用した。さらに、保健所などと協力して相談会も開いてきた。 JAは「水かけ菜漬けは地域の財産だが、生産者の多くは高齢。小規模で作っている生産者の生きがいや食文化も守りたい」(御殿場地区本部販売課)と話す。(木村泰之)
日本農業新聞