漬物は「常温で長期保存」できるのに、なぜ「浅漬けはダメ」なのか…? まさに「命がけ」の試行錯誤から生まれた「腐敗させない」4つの条件
基本調味料の「酢」「醤油」「味噌」はもちろん、「漬け物」「納豆」「鰹節」「清酒」さらには「旨味調味料」もーー。微生物を巧みに使いこなし、豊かな発酵文化を築いた日本。室町時代にはすでに麴(こうじ)を造る「種麴屋」が存在し、職人技として発酵の技術は受け継がれてきた。 実は科学の視点から現代の技術で解析を進めるにつれて、そのさまざまな製造工程がいかに理にかなったものであるか、次々に明らかになっている。発酵食品を生み出した人々の英知に改めて畏敬の念を覚えつつ、このような発酵食品について科学的な側面から可能な限り簡明に解説していく。今回は、発酵食品を製造するために必須な「4つの条件」について解説します。 *本記事は、『日本の伝統 発酵の科学 微生物が生み出す「旨さ」の秘密』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
発酵食品の安全性とは?
一般の人々は微生物の存在を意識することなく、発酵食品を生産・消費している。納豆やヨーグルトは微生物の働きで作られることは知識として知っていても、実際に微生物を目にしたことのある人はあまりいないのではないだろうか。 発酵食品は食材を微生物の作用により加工して製造した食品であり、納豆、漬け物、鰹節など風味を改良した食品または保存食として作られる。さらに、醤油、味噌、食酢などの発酵調味料やビール、清酒などの嗜好品としての酒類も、れっきとした発酵食品である。海外でも、パン、ヨーグルト、チーズ、キムチ、ピクルスなどさまざまな発酵食品が製造され賞味されている。 発酵食品は、微生物の存在が認知される以前から、試行錯誤により伝統的な製造法が編み出され、連綿と伝えられてきたものである。一般に、発酵食品の生産は非常に手間暇のかかるものであり、注意と忍耐を要求される工程が多い。 人間は食いだめも冬眠もできないので毎日食料を確保しなければならないが、食料は一気に大量に手に入るときもあれば、冬期などめったに手に入らない時期もある。 太古の人々は飢えと闘うために、食料をどうやって保存したらよいか必死に考えたことだろう。飢えに耐えかねて、異臭を発するようになった食料に手を出した人もいたはずだ。必ずしも勝率の良い賭けとは言えず、食中毒を起こして無念の死をとげた人も多かったことだろう。初期の発酵食品は、このような命がけの試行錯誤から生まれたと思われる。 いかにして食料の腐敗を防ぐか。腐敗は食中毒の原因となる雑菌(腐敗菌)の繁殖であるから、このような腐敗菌が生育しないようにすればよい。微生物の繁殖には、栄養分と適度な〈温度〉〈水分〉〈塩分〉〈pH(酸性・塩基性の度合い)〉などの条件が必要であるから、食料を安全に保存するためには腐敗菌の繁殖に必要な条件のどれかを除くのが合理的である。