【シンガポール】低所得者の賃金上昇を重視 新ガイドライン、生産性向上も
シンガポールの政労使で構成する全国賃金評議会(NWC)は、12月1日から来年11月30日までの期間に適用する賃金ガイドラインを発表した。低所得労働者には引き続き5.5~7.5%の昇給を実施するよう企業に勧告。生産性を持続的に向上させるため、従業員のスキルアップ、再教育に力を入れるよう促した。不確実な経済見通しの下で継続的な賃上げに向け、全ての雇用主に「柔軟な賃金制度(FWS)」の導入を求めている。 全国賃金評議会は勧告書で、低所得労働者と中所得の労働者の賃金格差を向こう10年で縮小させるため、低所得労働者の賃金上昇率を高く設定する必要性を強調。月額賃金が2,500Sドル(約28万6,000円)以下の労働者について、事業が好調で業績見通しが明るい企業には「5.5~7.5%の上限」あるいは「100~120Sドル」のいずれか高い方での昇給を要求した。 事業は好調だが業績見通しが不透明な企業の場合、「5.5~7.5%の下限から中間」または「100~120Sドル」のいずれか高い方の昇給を求めている。業績が不振な企業は5.5~7.5%の下限での昇給を勧告した。低所得労働者の中でも賃金の低い人には、より高い割合の賃金上昇を実施することを求めている。 全国賃金評議会は、「賃金上昇は生産性の伸びに見合うものでなければならない」という方針を原則としている。勧告書では、生産性を向上させるための従業員の再教育とスキルアップの重要性を強調。政府機関が実施する体系的な研修に従業員を参加させる企業の割合が、2022年の52.8%から23年には54.3%に上昇したと指摘し、雇用主と従業員の両者が業務変革と労働者のスキルアップ、再教育に投資する努力を継続するよう求めた。 具体的には、「従業員を将来の職務のために訓練する」「生産性を高めるため業務変革と併せて職務を再設計する」「従業員を訓練する能力を構築する」「変革を支援するために人事を強化する」の4項目に重点を置くことを推奨している。 ■CPF拠出金の増額に注意 勧告書では賃金制度について、不確実な経済見通しの下で賃金上昇は企業の業績予測に応じて組み込まれるべきだと主張。全ての雇用主に対し、年次変動手当(AVC)と月次変動手当(MVC、業績に応じて減額可能な給与)を含む柔軟な賃金制度の導入と完全な実施を求めている。 政府は給与の上昇に合わせ、中央積立基金(CPF)の拠出額算出の対象となる月給の上限を2026年までに現行の6,800Sドルから8,000Sドルに段階的に引き上げることを決定している。次の引き上げは25年1月1日で、7,400Sドルとする。 55~65歳の高年齢労働者に対する雇用主のCPF拠出率は0.5ポイント上昇する。ただ政府は高年齢労働者のCPF拠出率の引き上げによる人件費上昇を緩和するため、対象企業の賃金をオフセット(相殺)する制度「CPF移行オフセット(CTO)」の期間を25年まで1年延長した。 全国賃金評議会は、賃金引き上げを検討する際にはCPF算定対象の月給の上限が引き上げられることで従業員の拠出額が増えることを考慮するよう雇用主に注意を促している。