「大人が本気で泣ける…」名作4コマ漫画が描いた「人間ドラマ」と「人生のあたたかさ」
■サイバラ流「究極の人間賛歌」
切なさで感情がかき乱される西原理恵子さんの『ぼくんち』。1995年から『ビッグコミックスピリッツ』にて連載されていた作品で、目を伏せたくなるような辛い環境で懸命に生きる家族の姿を温かいタッチの絵で描いている。 主人公は、貧困者のたまり場のような町に住む一太。住民はまともな生活を送っておらず、村は暴力・薬物・犯罪がはびこる劣悪な環境だった。彼の家も貧困で、家庭環境はかなり悪い。 あるとき、家出を繰り返す母親が、夜の世界で生きる姉・かの子を連れて3年ぶりに帰宅した。一太は腹違いの弟・二太とともに久々の家族だんらんを楽しむも、母は再び家を出てしまう。 ここから残された3人の生活が始まるのだ。かの子は体を売りながら兄弟に愛を示し、兄弟もまた死が隣り合わせの地獄の中で小さな幸せを見出していった。 前述したように、住民にいわゆる“普通”な人はいない。中でも印象的なのがこういちくんだ。一太らと同様ヘビーな環境で育った彼は次々と犯罪を犯す危険人物ながら、しばしば姉を気遣う優しい一面を見せる。一太は家族のためにそんなこういちくんの元で危ない仕事に手を出し、次第に落ちていく。 3人で静かに暮らす、という一見当たり前のようなことが彼らにはできなかった。一太はその後町を出て行方不明となり、二太を養えなくなったかの子は彼を親戚に預けることを決意。二太は、かつてかの子に教えられた「泣いたらハラがふくれるかあ。泣いてるヒマがあったら、笑ええっ!!」という教えを守り、笑顔を見せながら旅立つのだった。 彼らの世界には救いがない。登場人物たちは、そんな不条理さを理解しており、どこか諦めの境地のような感覚も持っている。しかし、その中でも小さな幸せを見出していたからこそ、多くのキャラが人生の本質をたびたび説く。あまりのシビアさにやり切れない気持ちになってしまうが、多くの学びを得られる名作だ。