なぜインドカレー屋をネパール人が経営しているのか? 「カレー移民」の謎に迫る一冊(レビュー)
確かにとても気になっていた。日本全国で見かける「インド・ネパール料理店」。甘めのバターチキンなど数種のカレーを中心に、ふわふわのナンとオレンジ色のドレッシングがかかったサラダが出てくる。こうしたネパール人の経営するインドカレー店は、「インネパ」と呼ばれているという。 なぜ、「インネパ」はどの店もまるで〈コピペ〉したようなメニューなのか。そして、どんな経緯で全国津々浦々に広がっていったのか。本書はそんな「カレー移民」の謎を徹底した取材によって解き明かしたノンフィクションである。 日本でネパール人経営のカレー店が増え始めたルーツを辿ると、もともとは有名インド料理店のコックだったネパール人たちが独立したのが始まりだったそうだ。 日本で働くためにやってきたカレー移民たちには、「失敗できない」という切実な思いがある。そんななか、「日本人はこういう料理が好きだろう」と独自の進化を遂げたメニューが真似された。コックとして雇われたネパール人が、さらに独立して自ら働いていた店を模倣し……という形で、同じような店がネズミ算的に増えていったのだ。 著者が在日ネパール人の声から浮かび上がらせていくその増殖の過程を読んでいると、一つの特有の食文化やコミュニティとは、このようにも作られていくのか、という驚きを覚えた。 移民を日本に呼び寄せる人材ブローカーの世界、夜間学校に通う子供たちと教育の問題、多くの移民の出身地である「バグルン」への旅……。 著者はカレー移民の一人ひとりの人生を丁寧に辿り、この30年の日本の移民政策と現場のリアルを鮮やかに結びつけていく。彼らの逞しさ、ひたむきさ、したたかさ、様々な葛藤や悩みが混ざり合い、次第に見えてくる「カレー移民」の光と影に興味がつきない一冊だった。 [レビュアー]稲泉連(ノンフィクションライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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