「涙なしには見られない!」ARMYライターがBTSの10年の軌跡をたどる「BTS Monuments: Beyond The Star」を徹底レビュー
2013年にデビューし、今や世界的大スターとなったBTS。そんな彼らのデビュー前から現在までの10年間の軌跡を追ったドキュメンタリーシリーズ「BTS Monuments: Beyond The Star」が、ディズニープラスで12月20日から独占配信中だ。そこで本稿では、全8話の見どころとともに、7人の10年間の軌跡を振り返っていく。 【写真を見る】“完全体”としてのカムバックは2025年予定。BTSの知られざる苦悩や未来への思いが明らかに ■デビューまでの日々、成功の裏にあった苦悩…BTSメンバーの心中が明らかに 第1話は「始まり」。コロナ禍になる直前、「ON」のプロモーションでアメリカへ渡り、数々のメディアに出演して華々しく活躍する7人が映される。幻となってしまった2020年のワールドツアー「MAP OF THE SOUL TOUR」は、もし開催されていれば日本ではなんと12公演をも予定していた。本編では、ツアー中止を聞いた際のメンバーたちの反応や、当時の心境を7人が振り返り、赤裸々に語るインタビューも収録されている。 また、RM、SUGA、JIN、J-HOPE、JIMIN、V、JUNG KOOKからなる7人組の彼らが、いかにして「BTS」となったのか。まさに第1話のタイトルどおり、彼らの“始まり”がどのような物語だったのかが、懐かしいデビュー映像と共に語られていく。BTSのマンネ(末っ子)・JUNG KOOKの高校入学式にメンバー全員で参加したり、JINが宿舎(当時は全員で共同生活を送っていた)で料理をする姿など、まるでホームビデオを見ているかのような微笑ましい映像もたっぷりと収録。本編でSUGAが「メンバーは家族」と話していたように、J-HOPEが「この6人を信じてやっていこうと決めた」と語るように、共同生活やつらい練習を経て、彼らの絆が深まったことがよくわかる。また、BTSの生みの親であるパン・シヒョクのインタビューも必見だ。 第2話のタイトルは「青春」。BTSは2016年、初めてソウルオリンピック体操競技場でライブを開催。今ではドームどころかスタジアム級の会場ですらチケットが入手困難である彼らだが、当時は約15,000人キャパの会場を見渡してVが「本当に埋まるの?」と聞いている場面がある。JIMINも「チケットが完売するか不安だった」と明かしていた。 ARMY(BTSのファンネーム)に向けられたファンソング「2! 3!」についての想いも。「2! 3!」には「悲しい日々は忘れて花道だけを歩こう」「もっと良い日のために僕たちは一緒にいる」という願いが込められている。SUGAは「アイドルに対する視線が厳しい時代だった。あの歌詞は当時だから書けた」と振り返り、RMも「新曲を公開しても批判が多く、つらい日々を過ごした」と明かした。そんな日々を一緒に駆け抜けたARMYへ贈った楽曲「2! 3!」は、BTSにとってもARMYにとっても、大きな意味を持つ一曲だ。「当時は悔しかったが、そういう出来事があるとファンダムも成長する。その時にできた免疫がいまのBTSとARMYを創った」というRMの頼もしい言葉に、「さすがウリリーダー、RM!」とグッときた。 そんなつらい時期を経て、BTSは世界最大級のK-POP音楽授賞式「MAMA AWARDS」で初の大賞を受賞。以降、現在まで大賞の常連となるわけだが、当時の彼らは知る由もない。その後すぐに渡米した7人は「2017 ビルボード・ミュージック・アワード」で「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」を初めて受賞。「“次のステージに進める”と思った」とパン・シヒョクが語るように、この受賞をきっかけに、BTSは一気に世界的アーティストへと上り詰めていく。JIMINは大躍進を遂げた2017年について「笑うことが多い1年で、ずっと笑顔が絶えなかった。メンバーたちだけで祝い酒を飲んだ」と笑顔で振り返っており、まさに“青春”を謳歌している7人の姿を見ることができる。 しかしそんな青春真っ盛りな彼らであったが、徐々に強いプレッシャーに恐怖を感じ、「全員が辞めたいと思っていた。でもこの気持ちは、7人以外は知らなかった」という衝撃的な告白も…。JINは「注目を浴びることが精神的に辛くて重圧に負けそうだった」と話す。筆者は個人的に、この時期を振り返るインタビューを見ているのがとても苦しかった。あんなにメンバーのことが大好きなJIMINでさえも、「当時はメンバーと一緒にいるのがキツかった」と話していることに、衝撃を受けた。そして、そんな全員が苦しい状況の中で生まれたのが、BTSの大ヒット曲のひとつである、「FAKE LOVE」だ。 ■ARMYに感謝を!コンサートに込めたBTSの想い ARMYも苦しい気持ちで視聴した第2話だったが、第3話のタイトルは「幸せを追い求めて」。2018年は、BTSがさらに飛躍した年だ。ワールドツアーでの移動はプライベートジェット機となり、ボディガードの数も増えたという。今でこそK-POPアーティストが欧米のメディアや授賞式でパフォーマンスをすることは珍しくないが、その基盤を作ったのは間違いなくBTSだろう。「FAKE LOVE」の初パフォーマンスは、アメリカで行なわれた「2018 ビルボード・ミュージック・アワード」で行なわれた。さらに同年9月には、ユニセフのグローバル・サポーターとして、ニューヨークの国連本部でスピーチを行った。「あなたが誰なのか、どこから来たのか、肌の色やジェンダー意識は関係ありません」というRMのスピーチは、国籍も世代もジェンダーも超えて、世界中から愛されている彼らだからこそ説得力がある言葉だ。 さらに2019年には「第61回グラミー賞」に出席し、プレゼンターも務めた。授賞式が終わるとすぐに生配信を行い、 “グラミー初参加”をARMYと一緒にお祝いしてくれた。そしてワールドツアー「LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF」の開催。韓国アーティストとして初めて、全世界のアーティストが憧れるイギリス・ウェンブリースタジアムで公演を行ったことも大きな話題となった。 どれだけ世界的アーティストになろうと、BTSはARMYへ必ず感謝の気持ちを伝えてくれる。ソウルで開催されたツアーファイナル公演では、これだけ過密スケジュールをこなしている7人が、「ツアーが終わるのが悲しい」とARMYの前で泣いていた。BTSがどれだけARMYを、そしてライブを大事に思ってくれているのかが伝わり胸が熱くなった。 第4話、「離ればなれ」。RMは「『ON』についてはみんな歌詞を忘れてるかもしれませんね」と話していたが、「痛みを持っこい、苦痛を糧にして強くなってやる」という強烈でかっこいいフレーズは、初めて聴いた時、本当に衝撃だった。そんな「ON」を提げて行う予定だったのが、第1話でも触れた2020年のワールドツアー「MAP OF THE SOUL TOUR」だ。プロモーションのために大掛かりなゲリラライブも予定していたという(本当に見たかった…)。 第1話でも流れた、ワールドツアー開催中止が決まった際のメンバーの落胆した姿が映し出され、胸が苦しくなる。「何を楽しみに生きればいい?ライブが全てなのに」というJUNG KOOKの言葉は、まさに当時の私たちARMYの言葉そのままであり、メンバーも全く同じ気持ちだったのだなと、泣きそうになってしまった。自主隔離を行い、寂しそうに一人で部屋の掃除をするJIMINの姿も堪えた。 そんななか、BTSは初のオンラインコンサート「BANG BANG CON The Live」を開催。そして2020年8月には、世界中で大ヒットした「Dynamite」をリリースした。BTSは「Dynamite」で初の全米1位を達成。正真正銘の、世界的トップアーティストとなった。当時、コロナ禍がいつまで続くかもわからず暗くて長い夜がずっと続いていたARMYにとって、「Dynamite」は希望の歌であり、BTSだけが私たちに元気と勇気を与えてくれる存在だったように思う。しかもこの楽曲は、SUGAの言うように「1位をとりたくて作ったわけじゃなく、みんなに元気になってほしくて作った曲」なのだ。結果としてその楽曲が、世界中の人々を明るく楽しい気持ちにさせ、全米1位に輝いた。BTSは本当にどこまでかっこいいのだろうか。 BTSは「Dynamite」で初めてグラミー賞にノミネート、そしてソウルから中継でパフォーマンスも披露した。ノミネートの発表をドキドキそわそわしながら待っているRM、JIMIN、V、JUNG KOOKの様子も本編に収録されているので、ぜひ見てほしい。 「Butter」「Permission to Dance」と立て続けにリリースした曲が大ヒットしたBTSは、アメリカ・ロサンゼルスのSoFiスタジアムで約2年ぶりの有観客コンサートを開催。切望していたコンサートでの様子がメインで収録されている第5話のタイトルは、「ウェルカム!」だ。「次いつコンサートができるかわからないから、4日間全力で公演を行った」と語るJ-HOPE。実は筆者は、このSoFiスタジアムの公演に全日程参加したのだが、約2年ぶりのコンサートということでBTSの気迫のこもったステージに本当に圧倒された。ARMYの歓声も凄まじかった。JUNG KOOKが「歴史に残る公演になる」と冗談っぽく言っていたが、まさに歴史的公演になったと思う。RMが「やっとの思いで会えるから、ギフトセットみたいに披露すべきだ」と言っていたように、セットリストもデビューからこれまでの人気曲をまるごと楽しめる、まるでBTSからの贈り物のような、超豪華なセットリストだった。 公演後、帰りの車内で「次の公演はいつかな」と話すJIMINとJ-HOPEからは、本当にライブをすることが大好きなのだなと伝わってくる。また、ロサンゼルスでそれぞれ自由時間を楽しむ7人も必見だ。 ■BTSの“理想”がK-POPの新しい道筋に 5話のラストで「新しい章の準備をしないと」と話していたJ-HOPEが、BTSの集大成となる新アルバム「Proof」の準備をしているシーンからスタートする6話「再始動」。新曲「Yet To Come」は、「私たちの最高の瞬間はこれから」とBTSとARMYの物語がこれからも続いていく、そして最高の瞬間はまだ来ていないという想いが込められた楽曲だ。7人のレコーディングのシーンでは、ラップライン(RM、SUGA、J-HOPE)が楽しそうに「Run BTS」を収録している。 2022年には、ソウルで“声出し禁止”のオフライン公演を開催。本国公演ということもあり、リラックスした状態でサウンドチェックを行う7人。「久しぶりに友達と会った気分」とJIMINは嬉しそうに目を細めた。Vは、「人々の期待の中で生きるのは怖い。ただ、ずっとARMYを見ていたいと思うから長く愛を与えられるアーティストでいたい」と話し、JINは「一度頂点を経験したから、今後はそれぞれが好きなことをして生きていくのも悪くない」と笑顔で語る。そしてBTSは、グループ活動だけではなく、ここからそれぞれの道を切り開いていくこととなる。 7話「紫のままで」。2022年、BTSはラスベガスで単独コンサートを開催。この時期はラスベガスの街全体がBTSとコラボを実施していたのだが、ベラージオの噴水ショーでBTSの楽曲が流れることに喜ぶJ-HOPE、V、JUNG KOOKが微笑ましい。ラスベガスでのライブ終了直後、メンバーたちが楽屋に戻っても鳴り止まない歓声を聞いて、「もう歓声が恋しくなりそう」と嬉しそうに語るJ-HOPEも印象的だった。 7話後半では、一人暮らしをしているメンバーそれぞれがどんなふうに家で過ごしているのかがわかる、ARMY必見の映像が流れる。JIMINは自宅にJUNG KOOKを招き、2人で一緒にチキンやおでんを食べたり、料理をしたりと、仲良しコンビで休日を過ごしている。Vは自宅でゲームをしたり、かけるレコードを選んだり。「僕の好みを詰め込んだ部屋」というセンス抜群のインテリアの数々は、彼自身が選んだものだそうだ。RMの自宅には、たくさんの素晴らしいアート作品が並ぶ。RMはなんと自宅の冷蔵庫の中身まで見せてくれていた。「『ON』で一区切りついたらどうなっていたのだろう」と考えることがあると話すRM。SUGAは、「パンデミックがなければ、2020年11月から2年半ほど活動休止する予定だった」と激白している。 「この先どうなるかわからないけど、BTSはこれからも存在するだろう」というJ-HOPEの力強い一言から始まる最終話「明日への約束」。2022年10月に釜山で開催された一夜限りのコンサート「Yet To Come in BUSAN」。SUGAはこの公演で「『BTSは健在だ!』というところを見せたかった」と振り返る。 最終話では、 BTSとして輝いている7人というよりも、JINが友人たちとキャンプに行く様子や、SUGAが釣りを楽しむ姿、J-HOPEの一人旅の様子など“個人”として人生を楽しんでいる7人が映し出されていく。JINはBTSのメンバーについて「絶対に一緒にいなきゃダメというわけじゃない。みんなそれぞれやりたいことや夢がある。それを応援しながら、グループとしての活動も心に留めていけたらいい。それが幸せに近いんじゃないかなと思う」と語っていた。RMも、「30代も理想的なアイドルの姿を見せたい。グループを維持しながらソロ活動も行なって、K-POPグループのネクストチャプターをかっこよく示したい」と明かす。BTSとしても個人としても、やりたいことをやっていきたいという彼らの“理想”は、これからのK-POPの新しい道筋となるのではないだろうか。 JINの入隊、そしてそれぞれのソロ活動が本格的に始動した2022年。JINが入隊のために坊主にする様子を、真剣に見守るSUGAとJUNG KOOKのシーンも印象的だった。 2024年現在、BTSは全員が兵役へ行っており、“完全体”として再始動するのは2025年と言われている。JIMINがARMYに向けて制作したファンソング「Letter」に合わせて流れる感動的なシーンの数々は涙なしでは見られない。しかし最終話、最後のVの口から語られた言葉が、BTSの全てであり、本質だと思う。その言葉をぜひ本編で確かめてほしい。 文/紺野真利子