ポップなピンク壁が美しいメキシコ建築の名作、実はある狙いがあった【造園家・齊藤太一さん旅連載】
世界中の地球と共鳴する心地よい居場所=「グラウンドスケープ」を求めて、世界を旅した造園家の齊藤太一さん。今回はメキシコで、明るい色の壁面が特徴的な建築家ルイス・バラガンの建築作品と庭園を巡りました。 【写真集】メキシコモダン建築の巨匠ルイス・バラガンが目指した「建築と自然の共生」
20世紀を代表する建築家ルイス・バラガンは、メキシコの青い空と、ブーゲンビリアの花が大好きだった。その愛する自然の色を建築に取り入れるため、塗装の専門家に植物色素の抽出・配合までさせていたといいます。そして、アトリエではガラスのオブジェを使い、何度も何度も実験を繰り返しながら、時間による太陽の動きや光の当たり方を緻密に計算していた。今回は、そんな「色と光の建築家」の作品を、メキシコで堪能してきました。
ポップな色使いや、直線や箱形がレイヤードしたモダンな建物が注目され語られがちですが、実はバラガンは庭をとても大切にしていた。家を建てるために木を切るのではなく「この木があるから、ここに建てる」という発想で、植物との共生を目指した人です。 特徴的なのは、自然を手つかずのまま使うのではなく、ナチュラルな姿で取り入れつつも、景色として徹底的に“つくりあげていく”点。この窓からどう見えるか、壁の上からどうオーバーハングさせるか、モダンな建築とのアーティスティックな対比…。バラガンの建築を見ていて、ピンクの壁が一枚あることで、そこにある自然が際立って見えることに気がつきました。
グランドスケープの旅は、現代の都市化を否定して始めたものでしたが、プリミティブな大自然を追い続けるなかで “人がいるからこそのおもしろさ”も発見し始めました。「こうあるべき」とかたくなにならず、ものごとをニュートラルに考えられるようになってきた気がしています。 建築やデザインの知識を独学で身に付けた点、建築とランドスケープをつながったものとして捉える“都市計画家”でもある点、建築のなかに光や風の動きなど地球の法則を取り入れる点etc. ジェフリー・バワと驚くほど共通点があるバラガン。バワが「建築は屋根」と言ったように、バラガンは「建築は壁」と言ったに違いないと、僕は思っています。
ペドレガル邸、ヒラルディ邸、サン・クリストバルの厩舎はメールによる事前予約制で内部の見学が可能。バラガン邸は事前にチケットをWEBで購入して見学できます。バラガン邸とヒラルディ邸はメキシコ中心地にあり、徒歩15分ほどの距離なので合わせて見学可能。ペドレガル邸はそこから南方向に地下鉄で約1時間ほど、サン・クリストバルの厩舎は北方向にバスで約1時間ほどの場所にあります。 鮮やかな壁が美しい建築の数々。メキシコを訪れる際はぜひチェックしてみて。