あなたの知らない札幌《本郷彫刻美術館》前編 創作時の息吹伝わるアトリエ
【北海道・札幌】人口200万人の声も聞こえる北の大都市・札幌。その札幌には、多くの観光地や名物施設があります。とはいえ、札幌市民ですらそれらのすべてを知っているわけではありません。そこで不定期連載として「あなたの知らない札幌」と題した企画をスタート。第4回前編は、札幌市中心部から少し西寄り、閑静な住宅街にある本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区)の加藤正浩さんに、作品を多く所蔵している彫刻家・本郷新について聞きました。(構成/橋場了吾)
札幌に生まれ「平和」と「母子愛」を追求した彫刻家
本郷新は1905(明治38)年に札幌で生まれた20世紀を代表する彫刻家で、札幌はもちろん日本中にその作品を遺しています。 彼が一貫していたテーマが、「平和」と「母と子の愛」でした。前者では「わだつみのこえ」、後者では「嵐の中の母子像」が有名でしょうか。 「わだつみのこえ」はここの美術館の前庭にも設置されていますが、全国で全7か所に設置されている本郷新の代表作です。この作品は、1950(昭和25)年に学徒出陣で命を失った若者たちの遺稿集である「きけ わだつみのこえ」の収益で制作されたものです。 また「嵐の中の母子像」は、石膏の原型と樹脂製のものを当美術館で所蔵し、ブロンズ像は広島平和記念公園など全4か所に設置しています。ひとりの子どもを抱きかかえ、もうひとりの子どもを背負う母親という構成が、戦後日本の苦難に立ち向かう姿勢を表現している作品です。 おそらく、札幌市民に一番なじみがあるのは、大通公園にある「泉の像」ではないでしょうか?女性3人が両手を挙げ踊っている様子の銅像なのですが、この石膏も当美術館に常設展示していますので、その意外な大きさも感じてもらえると思います。
晩年を過ごしたアトリエが美術館に
その本郷が晩年、1977(昭和52)年に出身地・札幌に構えたアトリエが、本郷新記念札幌彫刻美術館の原型になっています。本郷は1980(昭和55)年に亡くなりましたが、翌年にそのアトリエに加え、隣に「新館」を建築し、本郷新記念札幌彫刻美術館として開館しました。彼の作品1800点近くを所蔵している当美術館は今年で開館35周年を迎えるのですが、当時の面影をそのまま残している場所もあります。 例えばアトリエ(新館と区別するため「記念館」と呼んでいます)には、本郷がアトリエを建てた当時に購入した家具がそのまま残っていて、作品集を読むお客さんなどが気軽に利用できるようになっています。 また一部の壁紙の補修などを除き、間取りやレンガ造りの壁などもそのままにしています。およそ40年前、本郷が作品を制作していた時の息吹を感じてもらえると思います。 今(4月22日取材時)は「In My Room」という北海道出身・在住の若手作家の個展を行っているので、その準備のために作品のレイアウトを大きく変えました。この美術館では年間にさまざまなイベントを行うので、彫刻作品の移動をよく行うのですが、これが意外に大変な作業なんです。というのも、ブロンズ像は見た目と違い相当な重さがあり小さな像でも100キロ近くあるので、職員が数人がかりで傷をつけないように動かしていきます。(後編へ続く) ※後編は6月14日(火)に掲載します。