<ラグビーW杯>NZは、なぜ史上初の連覇を成し遂げたのか
基本動作を貫くといえば、スタンドオフのダン・カーターもぶれなかった。概ね接戦の折に与えられたペナルティーゴールとコンバージョンゴールを、合計6本中5本も決めた。 そして、わずか4点リードで迎えた29分だ。丁寧に繋がれたボールをもらうや、地面に垂直に落とした球を蹴り上げる、ドロップゴールの動作に入った。乱戦のさなか、約45メートルのまっすぐな軌道を描く。決めた。24―17。このシーンを、カーター本人は「チームのプラン通りだった」といった内容の発言で振り返った。マン・オブ・ザ・マッチに輝いた。 元オーストラリア代表のスタンドオフ、ワラビーズのスティーブン・ラーカムバックスコーチも、こう褒めるしかない。 「キックが正確。ゲームコントロールが素晴らしかった」 オールブラックスは以後、得点板とは無関係に余裕を持っていたか。 30分頃には、ハーフ線付近左でのスクラムで魅せる。逆転を狙ってがっつくように押すワラビーズに対し、小さくまとまることで応戦。塊を故意に崩すコラプシングの反則を奪った。 そういえば、日本人スーパーラグビープレーヤーの田中史朗は、ニュージーランドラグビーの質の高さをこう表現していた。 「いつもコミュニケーションを取っている。状況に応じて、誰がどんな風に動くのかをきちんと話している」 有形、無形を含めたコミュニケーションが、80分間を通しての我慢(および正確な判断)に繋がったのだろう。勝者は34、38分と、だめ押し点を積み上げた。 これでオールブラックスは、1987年開始のワールドカップ史上最多の優勝回数をマークすることとなった。現時点では、現代ラグビーの歴史上最強チームということだ。もっとも、今大会で主軸だったフランカーのリッチー・マコウ主将、カーター、ノヌはそれぞれ34歳、33歳、33歳とベテランの域に達している。代表を退く意向も示したことがある。オールブラックスが4年後の日本大会までトップランナーでい続けるには、よりシビアな選手間競争、適切な世代交代が求められよう。 「彼ら(ベテラン勢)は確実に去ってゆく」と危機感をにじませるのは、26歳のロック、サム・ホワイトロックだ。一方、ハンセンヘッドコーチは「幸運にも、オールブラックスにはいい選手はいる。そうした選手を彼ら(マコウ、カーター、ノヌら)と同じレベル(経験値)に引き上げるチャンスが来た、ということ」。2007年のフランス大会で8強止まりだった悔しさを知る人がどんどん減るなか、成功体験なら豊富な中堅どころがどんな文化を築くのだろうか。 (文責・向風見也/ラグビーライター)