にじさんじ・先斗寧が人を惹きつける魅力の源泉とは 喜怒哀楽から生まれる“人間臭さ”
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーのひとつであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】3Dミニダンスライブ『Dance Pon Dance』でダンスを披露する先斗寧 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与え始めている。 今回は、前回書き記した天ヶ瀬むゆとVTA時代からの同期である関西生まれのタレント・先斗寧(ぽんと ねい)について今回は記していこうと思う。 先斗寧は2022年3月16日にSNS初投稿、3月20日に初配信を行なってデビューとなった。濃い紺色の髪で左右からおさげを垂らし、青色の上着と白色のロングタイツと、上下のコントラストが非常に映えるビジュアルだ。ちなみに普段の配信でほとんど見ることはないが、青色の上着のしたには白いセーラー服を着ており、ハイウエストのショートパンツかと思っていた服が、実は腰よりも高い位置にある……なんとも不思議な衣装となっている。 彼女は首から赤いボトルをかけているが、その中身はタバスコ。「好きな食べ物は辛いもの」とデビュー配信で話しており、小学校時代から現在に至るまで変わらない好みだという。バラエティ企画では定番である「激辛食品を食べてみる」系企画に何度か挑戦しているが、他の人ならば悶絶レベル・痛覚として痛みを感じる辛さでも、一切効いている素振りがなく、あまつさえ「おいしい」と味わいながら食べているレベルである。 先日おこなわれた犬山たまきとのコラボ配信では、「とある時期に週7で蒙古タンメンを食べたことで病院送りになった」「しかも1日3食中2食ペースで食べており、週に14回食べていた」というレベルであったことが明らかになった。 こうした好みもあり、最近ではお昼ご飯に激辛料理を食べる「激辛ランチ」配信をしている。CoCo壱番屋5辛を食べた際は「から……くないな? 普通においしい」「2辛も5辛も変わらんかったな、わたしのなかで」と話している。……いったいどんな激辛料理であれば彼女が「辛い!」と言うのか、もはや公式番組などで調査しても良いレベルだ。 逆に甘いものが苦手であり、辛いものは好きだが食そのものへのこだわりはあまり無いタイプ。2024年8月にデビューした新人5組・Specialeが料理をモチーフにしたグループであることを知ると、「管理されてぇ、食生活」とリスナーにこぼしていたほどだ。 先斗はデビュー初期に自身が兵庫県の生まれであることを明かしており、配信中の会話では兵庫~関西圏のネタが出てきやすい。にじさんじには関西生まれの先輩・後輩が多く在籍しているが、関西弁を実際に使っているかはまちまち。彼女はというと、関西弁を抑えて話せないタイプであり、気分が乗ってくると関西弁のイントネーションで会話を続けることが多い。 そんな彼女が初めてにじさんじを知ったのは、西園チグサや周央サンゴらの世怜音女学院演劇同好会のデビュー後、ローレン・イロアスやレイン・パターソンらエデン組のデビューした頃だと語っており(2020年8月から2021年7月までのあいだ)、そのままバーチャル・タレント・アカデミーに応募・合格を勝ち取ったようだ。 なお、最終面接の直前に面接会場の近くで「3倍!Sun Shine!カーニバル!」を聞き、泣きそうになっていたという逸話がある。バーチャル・タレント・アカデミー在籍中は、コロナ禍期間であったこともありホテルの在泊料金が非常に安く、それを利用して数ヶ月以上に渡ってホテル暮らしをしていたことを明かしていた。 VTA生としての最後の授業は2022年3月15日。いちど関西の実家に帰るために荷造りをし、3月16日の初投稿は駅のホームから行ったという。 初めてにじさんじを知ってから1年とすこしで、晴れてにじさんじの一員となった先斗寧。なんともドラマティックに自身の人生を変化させた彼女は、その後数年に渡って、徐々に自身のキャラクターを活かした活動をしていくことになった。 Ranunculus(ラナンキュラス)の青担当・先斗寧は、ときたまクールビューティを自称することがある。実際の彼女は関西人らしいアップテンポな受け答えでリスナーと会話し、多くのファンを生み出してきた。 Ranunculusとしてデビューした同期・天ヶ瀬と海妹と同様、長時間の会話を苦にしないタイプの先斗であるが、2人が小ボケを挟みがちなのをみて、ツッコミ役・整え役として3人の会話で存在感を放つことが多い。これは先輩・後輩との絡みでもおなじで、ボケ役を買ってでるメンバーや天然キャラが多く在籍している環境におかれてオチがないとムズムズしてしまうのか、キレッキレのツッコミを度々みせてくれる。 デビュー当初は腰が低く、自分よりも先輩や他の人を優先したり、優しく一言だけ添えるようなツッコミが多かったが、甲斐田晴、長尾景、花畑チャイカなど、勢いよく自身をイジってくる先輩と関係を良き築けたこともあり、かなり鋭く・手早いツッコミを見せるようになったのだ。 それだけでなく、いわゆるプロレス芸と呼ばれるような茶番・コントに対しての感度が元から高く、乗っかって色々とイジっていくスタンスを早くからみせている。デビューから2年近く経過した今では、むしろ“乗っかりたがり”なタイプにすらなっている。 「最近どの配信にいっても、ツッコミをやってる気がする」 「自分のことをツッコミだと思ったことはないけど、『わたしが居なければこの場はどうなってしまうんだ?』と思うタイミングがある。ボケが押し寄せてくる」 つい最近の配信ではこのように話しており、徐々に自分の立ち位置・ポジションが確立しつつあることを自覚し始めているようだ。デビュー配信時に「芸人さんのネタを見るのが好き」「賞レースをよく見ている」と語っており、こういった点はお笑い好きだからこそというべきだろう。 そんな彼女の姿をみたリスナーやファンからは、ボケたコメントやツッコミ待ちのコメントが送られることも多く、雑談中・ゲーム中でもタイミングが合えばピシャリとツッコんでくれることが多い。 逆に先斗からリスナーにむけてオーダーし、こういうコメントをしてほしいと要求した挙げ句、「ちょっとやっぱやめてもらっていい? やっぱキモかったわ」「みんなめっちゃ訓練されてるやん。バーチャル・コメント・アカデミーに行ってたやろ、絶対」と切り返したり、コメントそのものの粗を指摘しつつ「よいしょ! 一本釣り!」と揚げ足をとってみせるなど、かなり愉快にリスナーと対話している。 ちなみに、そんな彼女もたまには異なる一面を見せることがある。記念すべき1周年に合わせて、彼女にとって初めての飲酒配信をしたところ、序盤はいつものようにキリッとしていたのだが、VTA時代の思い出や1年間の活動を振り返っていくにつれ、フニャフニャと力なく笑いながらすこしダラけた表情で会話していくことに。 「えぇ?酔ってないよぉ。お酒全部飲んでから配信終わりまぁーす」 リスナーに向けて無邪気な笑顔をみせるその姿はビシバシとツッコミを入れていく普段の姿ではなく、先斗寧とは思えず、多くのリスナーがギャップに身悶えたことだろう。“クールビューティ”ではなく“ラブリーキュート”といっても過言ではなかった。 そんな先斗寧の得意ゲームといえば『スプラトゥーン』。同ゲームを使ったコラボ配信で多くの先輩・後輩らと交流を深めている。ゲーム内のランクはSランクであり、前述の花畑、長尾にくわえてフレン・E・ルスタリオ、五十嵐梨花、社築、春崎エアル、笹木咲、桜凛月、不破湊ら、にじさんじ内でも上級者である面々から一目置かれているレベルにある。 先斗寧といえばもう一つ、「アイドルマスター シンデレラガールズ」シリーズの大ファンなことでも知られており、特に佐藤心の大ファンである。佐藤心が新規ビジュアルで採用された際にはほぼ必ずガシャ配信をしており、ゲーム内に採用されているMVを鑑賞する配信などもしている。 また、2023年末から「アイドルマスター」関係のコンテンツが配信上で扱いやすくなった事情もあり、にじさんじ内で何度かカラオケ配信がおこなわれていたのだが、もちろん先斗寧も参加している。大好きな『シンデレラガールズ』関連の楽曲だけでなく『Side M』『ミリオンライブ!』関係の楽曲も歌っている。 この2作を含め、デビューからさまざまなゲームをしているが、『ペルソナ』『ポケットモンスター』『ファイナルファンタジー』といったRPG~アクションゲームを多く配信し、アーカイブをみればその偏りに驚くことだろう。その行く末に心動かされる姿を何度となくみせてくれ、キャラクター達の一挙手一投足に集中しているのがわかる。 そうしてゲームに親しむなかで“事件”ともいうべき配信が生まれた。 それは、2024年4月12日におこなわれた『エアホッケー』配信での出来事だ。この作品は、もともと富士通が展開するパソコン・FMVシリーズにインストールされた「GamePack」のなかに収録されていたゲームであり、「ゆうた」という男子を操って、5匹の動物キャラクターと勝負する内容である。 そんな『エアホッケー』が2024年3月28日にWEBブラウザ向けに移植・リリースされたということで、ネットミームと知っている層やトラウマが疼いた層などが一斉にプレイし、にじさんじのなかでも大きな注目を集めることになった。 じつはこのゲームが有名なのは、ふつうモードと言われるうさぎ・ルンちゃん以降がかなり強く設定されていることが原因であり、あまりの強さに心を折られたユーザーの間である種のトラウマとして記憶に深く刻まれることになったのだ。 先斗はVTA時代の同期・鏑木ろこに薦められてノリでプレイしはじめたのだが、もちろんここまで込み入った情報を知るよしもなく、至って普通のゲームとしてプレイしはじめた。 「エアホッケーってわからないけど、横に振ってればいいんでしょ?」とウキウキしながらプレイしはじめたのだが、一番手の象・トロゾウをクリアするのに20分以上かけ、2番手のちーすけに1時間以上かけ、その時点でかなり不機嫌な状態へ。 そして3匹目のうさぎ・ルンちゃんと対戦したのだが、あまりの一方的にやられように途中から声すら発することなく黙々とプレイしつづけ、約2時間後にようやく撃破。 「うおおおお!」「おめでとう!」と喜びやねぎらいのコメントがつぎつぎ書き込まれ、一気に盛り上がっているなか、先斗がぽつりと一言。 「二度とやらん」 そこまでのあいだに「なんやこいつマジで」「しょうもないわこのネズミほんま」「二度とエアホッケーすんなよマジで」「ダボネズミが調子ノリやがって」と、ふだんの配信ではまったく発することのない低い声でキレていたわけだが、強敵を倒して一息つき、ようやく発したのがこの言葉だったのだ。 リスナーへの言葉など一切かけることなく、そのままエンディングロールを流して配信が終了したのだ。 時間が経過するうちに暗い闇が迸り、ドスの効いた先斗寧が露わになっていく流れは、見ている者すべてを震え上がらせたのは言うまでもない。後日、にじさんじの先輩・桜凛月との対談配信ではこのように振り返っている。 「わたしはちょっと動物たちとかわいいエアホッケーがしたいだけなのに、なんでいまこんなことになってるんだ?って思ってた」 「ゲームプレイのもどかしさで『んんんっ!』ってなることはありますし、ストーリーものだと敵に対して『なんでだよ!?』ってキレたりするんですけど、それは敵なりの理由があって『ああそういうことだったのか』って後からなることが多いんですけど、シンプルにキレたのは『エアホッケー』が初めてかもしれない」 この配信中にかなりの罵声・罵倒を発した彼女だったが、この配信についてはかなり反省しているようで、黒歴史のように振り返ることもある。自身のチャンネルにこの配信にまつわる切り抜き動画もあげており、お笑いとして昇華しつつ、「今後こういったことはしないように」という戒めのようにしているのだろう。 もちろんここまでではないが、ホラーゲームでも怖がりがゆえに大声を上げてギミックに怒ることもあるため、「普通の女の子がゲームをプレイしたら?」という構図に先斗寧はそっくりそのまま当てはまるのかもしれない。 先斗が得意としている特技のひとつがダンスだ。前回記した天ヶ瀬と同じく彼女もダンス経験者であり、3Dビジュアルを得て以降はたびたび動画や生配信で披露している。 特に2023年6月末に催されたRanunculusの3D記念配信では、ボカロ曲「フォニイ」をカバーし、歌・ダンスを披露したが、彼女は後に「その場で作ったんだよね。何回振り付けを作ってもこうじゃないって納得しなくて、音楽にノって好きに体を踊るのが好きではあるので、振り付け全部取っ払って踊ったら形になってたから、これでいいじゃん!って」と振り返っている。 今年に入ってからは自身の誕生日に合わせた3Dミニダンスライブも動画収録・公開しており、メリハリの効いたキレのあるダンスをする、まさしく“クールビューティな先斗寧”を楽しむことができる。 彼女は自身をクールビューティと自称すること多いと冒頭に書いたが、途中で記したようにラブリーキュートな一面もあれば、パワフルでバイオレンス(?)な表情もみせることもある。 一方で、にじさんじ所属のメンバーのほとんどは目に見えてわかるほどのキレ方をみせることはないし、ちょっと偏った趣味性・嗜好性を持っていることを深く疑わずにいられる。 そんななかでアカデミー時代から信頼できる同期たちがおり、コメントを通してやりあえるリスナーやファンとの関係性があることで、ナチュラルなスタンスでありつづけられる。多くの魅力を持ち合わせ、同時に人間臭さをも持ち合わせていることが、彼女を先斗寧たらしめている。
草野虹