「共感できる言葉が見つかる」「不思議なノスタルジー」『違国日記』が心に刺さる理由を感想コメントでひも解く
「くいもの処 明楽」「さんかく窓の外側は夜」などで知られるヤマシタトモコの同名人気漫画を『PARKS パークス』(17)の瀬田なつき監督が実写映画化した『違国日記』(6月7日公開)。突然、同居することになった人見知りの女性小説家、高代槙生と人懐っこい姪、田汲朝との奇妙な交流を温かい視点で描くストーリーで、新垣結衣とオーディションで選ばれた新人の早瀬憩が主演を務める。年齢に性格、生き方も異なる主人公2人が向き合い、互いを想い合う姿が様々な共感を呼ぶ本作。公開に先駆けて実施したMOVIE WALKER PREESの試写会でも、劇中の言葉や考え方に自身を投影する人が多かった。30代も半ばである槙生と同世代、小さな出来事が将来を左右してしまうような、高校生の朝に近い年代の女性はもちろん、男性鑑賞者からも共感の声が続々。本稿では、印象的な感想コメントをピックアップしながら作品の魅力をひも解いていきたい。 【写真を見る】片付けが苦手でコミュ障で…新垣結衣演じる“完璧”な大人ではない槙生に共感! ■「思春期の複雑な感情と大人になりきれない大人」を描く美しい人間ドラマ 疎遠だった姉が亡くなり、その葬式に出席した小説家の槙生(新垣)。そこには両親を亡くしたばかりにもかかわらず、親戚たちから無神経な言葉を浴びせられる姉の娘、朝(早瀬)の姿が。その様子を見かねた槙生は思わず、朝は自分が引き取ると啖呵を切ってしまう。しかし、当の槙生は不器用で他人と暮すことに戸惑いがあり、朝は困惑する。理解し合えない寂しさを抱える槙生と朝は、一緒に暮らすことで互いの癒えない傷口に自然と触れることに…。 ある過去から姉との関わりを避けていながら、一人ぼっちになった朝を引き取るという選択をする槙生。シリアスな場面からスタートする本作だが、瀬田監督が作り上げた優しい空気感が全編に流れており、鑑賞後には心が温かくなったという声が多数を占めていた。 「思春期の複雑な感情と大人になりきれない大人、両方を経験する身としては不思議なノスタルジーに包まれるような作品でした」(男性・31歳) 「大切なことに気付かされると同時に、ずっと2人を見守っていたくなる温かい映画」(女性・27歳) 「生きづらさを感じている人には、心に刺さる。人と違うっていいことだと思う」(女性・33歳) 「マイノリティの生きづらさや居心地の悪さなど一人で抱え込んでしまいそうですが、一人じゃないというエールを感じました」(男性・28歳) 仕事や家族、友人との人間関係、自身のアイデンティティなど様々な悩み、葛藤を抱えている人は多いと思うが、そんな人を優しく肯定してくれる作品であることがこれらの言葉からも伝わってくる。 ■「共感できる言葉が見つかるかもと薦めたい」槙生、朝らが紡ぐ名言が心に刺さる! 「大切な人が、自分や他者のことで悩んでいる時に、共感できる言葉が見つかるかも、と薦めたいです」(女性・26歳)というコメントからもわかるように、劇中には心にじんわりと染み入る言葉の数々が散りばめられている。例えば、母(槙生にとっての姉)を拒絶する理由を執拗に尋ねてくる朝に対して槙生が言い放つ「あなたの感情も私の感情も、自分だけのものだから分かち合うことはできない」という言葉。一見すると朝を突き放しているようにも思えるが、彼女を子ども扱いせず、「人間それぞれが違っていて、すべてをわかり合えるわけではない」ということを伝える、一人の人間として尊重しているからこその言葉としても捉えられる。これには、 「“感情はその人のものだから、他人にはわからない”ということを、わからない側から伝えてくれるのがよかった」(女性・28歳) 「予告でも、本編でもすごく刺さった。ただし、突き放す言葉というわけではなく、お互いを尊重する言葉として、まさにその通りだと思ったから」(男性・30歳) 「個を大切にしているシーンはよかった。なにかと他人の目を気にする慣習、雰囲気が多く、生きていくうえで絶対にぶつかってしまうなか、そういう気持ちで生きていきたい」(女性・33歳) と本編で最も心に刺さった言葉として、挙げる映画ファンが多かった。 一方で、天真爛漫だが思春期らしいナイーブさも持ち合わせ、さらに両親を失ってしまったことの孤独感も抱える朝の言葉で、多くの共感が寄せられたものを紹介したい。彼女が、親友との間に距離を感じたり、槙生がかつての恋人、笠町信吾(瀬戸康史)と親しくするのを目にして、「私は誰の一番でもない」とその心情を吐露する。 「『一番に自分のことを愛してくれる人がいない』というシーンに共感しました。あの年ごろの時は、自分は何者でもないし、周りがうらやましかった」(女性・34歳) 「『私は誰の一番でもない』と言ってしまうところ。20年前の私ー!!って思った」(女性・36歳) 「自分も母を亡くした時に同じことを思ったので心にグッときました」(女性・36歳) 朝のような境遇になくても、自身の想いが一方通行に感じられて、寂しさや疎外感を感じた経験のある人は多いのではないだろうか? ■「なぜこんなにもみずみずしく、生々しく描けるのだろう」あなたの心に刺さる言葉が見つかるはず 年代、生き方も異なる槙生と朝だが、率直にそれぞれの胸の内を言葉にするところに多くの共感が寄せられていた。前述した言葉以外にもまだまだ名言と呼ぶべきものがあり、朝を引き取ることを決めた槙生が「私は決してあなたを踏みにじらない」とまっすぐに朝に言い放ったシーンには、「物語の根幹になるセリフだと思います」(女性・30歳)という意見や、「言われたかった言葉だし、朝が救われた言葉だから」(女性・28歳)という声も寄せられているとおり、まさに名言と言えるだろう。 また、“完璧”な大人だった母に育てられてきた朝は、散らかり放題の部屋に暮らし、身の回りに気を配ることもなく仕事に没頭する槙生の姿にショックを覚え、「大人ってもっとちゃんとしているものじゃないの!」とたびたび言葉にする。そんな朝の姿に自身の子どものころを重ねる声も。 「『大人ってこうだと思っていた』という言葉。自分もそう思っていたし、いまもそれが残っていて自分に対して課してしまうところがある」(女性・26歳) 「学生のころに思い描いていた大人像をふと思い出した。大人になるにつれて自然と忘れてしまった感覚。なぜこんなにもみずみずしく、そして生々しく描けるのだろうか」(女性・37歳) ■「誰かしらに必ず共感する」魅力あふれる登場人物たち 槙生と朝のほか、槙生への変わらぬ想いを引きずりながら2人の生活をサポートする笠町、槙生の学生時代からの友人である醍醐奈々(夏帆)、朝の親友で同じ高校に進学した楢えみり(小宮山莉渚)、弁護士の塔野和成(染谷将太)らが登場する。それぞれが自然体で、自身の考えを自由に言葉にしたり、周囲には言えない悩みを抱えていたりと、主人公2人以外の登場人物も魅力にあふれている。 「登場人物の誰かしらに必ず共感すると思います」(女性・34歳) 「幅広い層、それこそ思春期から子育ての終わった主婦といった様々な人の共感を集める作品として薦められます」(男性・31歳) 「俳優さんたちのキラキラした演技がとてもよかった。初夏にぴったり!大人が観ても、子ども(中高生)が観てもいい作品だと思う」(女性・36歳) 槙生たち大人世代と、朝やえみりらの思春期真っ只中のやわらかい世代まで、それぞれに現在や過去の自分を重ねて観ていたという人が大勢いる。ここからは、そんな登場人物や俳優たちの演技に寄せられた声を紹介しよう。 ■「遠くも近くもない、適切な距離」。笠町や醍醐…大人の関係性に憧れる 槙生と笠町はかつて恋人同士だったが、「結婚は考えられない」という槙生の意思によって別れを選んだ過去が。しかし、その後の2人の関係が悪くなったわけではなく、朝との同居に関する手続きを指南したり、2人で食事にも出かけるなど良好な関係性を築いている。このような2人の絶妙な関係性と恋愛観に言及する声も。 「結婚をいいものと考えていないことに共感しました」(女性・34歳) 「結婚や恋愛に対しての考え方。私も同じように思っているので」(女性・32歳) また、槙生のよき理解者である醍醐は持ち前の前向きさで周囲を明るくする女性。彼女のような存在に憧れるという声や、「夏帆さんは30代の等身大の役がはまりますね」(男性・28歳)など、そんな醍醐を好演した夏帆の演技が印象的だったという感想も見られた。 「適切な距離から、遠くも近くもないところから2人を見守る奈々」(男性・25歳) 「槙生を支えられる友人として、奈々はすばらしかった」(男性・30歳) 一方で槙生のことをほどよい距離感を保ちながら支える笠町には、同性や同世代から、自身もこうありたいという「理想の大人像」という声が印象的だった。 「笠町くんは理想の大人像というか、こうありたい存在としてずっとありました」(男性・31歳) 「槙生に対して笠町は、突き放さずに向き合い、いまの関係がなんだと断言しないところがとてもリアルだなと感じました」(男性・21歳) このほか、槙生と朝の同居生活を心配しながらも見守る槙生の母、京子(銀粉蝶)にも、「母は相反する姉妹をずっと見守りながら、彼女は彼女なりのなりきれていない、それでも立派な母としてそこにいた気がします」(男性・31歳)と、意見が寄せられていた。 ■「あのころを思い出す…」朝、えみりたち“はざま”の世代 朝やえみりら“はざま”で揺れる世代には、「あのころを思い出す…」というコメントがいろいろな思い出と共に寄せられている。中学を卒業し、高校生になったばかりの朝は、周囲の友人たちに「どうする?」と聞きがちで入る部活もなかなか決められずにいたが、軽音楽部への入部を決める。孤立せず普通でいたい。でも、特別でもありたい。このような相反する気持ちに思い悩む姿も10代ならではで、 「楽しかったはずなのに、突然ポーンと一人だけ世界に投げだされる感覚。まだ世界が狭い学生時代特有のあの感じを思い出して胸がぎゅってなりました」(女性・37歳) 「やりたいけど自分からは言いだせないという感じは自分の高校時代を思い出した」(男性・33歳) と自身の学生時代を回顧する声と共に、そんなみずみずしさをナチュラルに表現した早瀬を「朝役の子がとにかくすばらしかったです」(女性・38歳)「朝ちゃんがどこにでもいそうな中学生という感じでよかったです」(女性・34歳)など、大勢が称賛している。 また朝の親友、えみりは朝にも言えないある秘密を抱えており、どこか達観しつつも、誰にも相談できない苦悩と繊細な感情を持つキャラクターだ。 「彼女も生きづらさを感じつつ、自分の意思をしっかり持っていてよかった」(男性・30歳) 「(朝と)えみりちゃんとの体育館のシーン。若者ならではの根拠のない自信や希望と、無力さと、そして優しさが詰まったすてきなシーンです」(女性・37歳) 「間違えたり傷つけ合ったりしながらもまっすぐに朝と接するえみりが印象に残りました」(男性・25歳) それを表現した小宮山の存在感も際立っており、「他者への期待と諦めのバランスをうまく表現していた」(男性・28歳)「難しいシーンも多いなかで、印象的な演技がたくさんあって光っていた」(女性・36歳)と、彼女の繊細な演技に心打たれたという人も多くいる様子。 ■違う国で生きる槙生と朝。それでも静かに寄り添っていく「関係性の変化」に感動 槙生が朝に伝えるとおり、人と人では決してわかり合うことができないこともある。それでも、揺るがないと思っていた自身の考え、他者との関わり方を少しずつ変えていく槙生、彼女を理解していく朝の関係性の変化に感動する人たちが続々と現れている。 「人と人の溝、超えられない(他者という)ギャップというテーマを抱えつつも、朝のみずみずしい視点がラストの美しい余韻につながっていたと思う」(女性・31歳) 「槙生と朝が共に生活していくうちに、朝の考え方の変化や両親に対する想いを乗り越えていく姿に感動しました」(女性・33歳) 「2人の関係性の変化という点でとてもよかったと思いました。最初はぎこちない2人でしたが、私も槙生ちゃんに感情移入していって、朝がどんどんかわいく見えてきたので不思議でした」(女性・36歳) 生き方に悩んでいる人、自分の気持ちを理解してもらえず苦しんでいる人は多い。人生はままならないことばかりかもしれないが、『違国日記』はそんな人たちの心に寄り添い、肯定してくれる作品になっている。槙生と朝たちの関わり合いを見守りながら、前へと進む気づきを受け取ってほしい。 構成・文/平尾嘉浩