男性用避妊ジェルの治験で有望な結果、便利で確かな避妊法候補 「ようやく手が届きそう」
ジェルを注入するより良いパイプカット
パイプカットは、男性が避妊するためのもう一つの選択肢だ。19世紀後半からすでに行われていたが、20世紀になってから、より一般的になった。 パイプカットは、陰のうにある精管と呼ばれる小さな管(パイプ)を塞いで、精子が体外に出るのを防ぐ技術だ。多くの場合、手術で特殊なクリップを挿入して精管を塞ぐか、あるいは精管を切断して縛る。 女性が中絶医療を受けられるようにした「ロー対ウェイド判決」を米連邦最高裁判所が覆す判決を下したことを受け、パイプカットを希望する男性が増えているという。 「問題は、男性が好きなときにパイプカットを元に戻せると思っていることです」とバーダット氏は言う。「パイプカットをするのはかなり簡単ですが、元に戻すのは簡単ではありません」 パイプカットの戻し方によっては、60~90%の確率で生殖能力を取り戻せる。しかし、手術が必要であり、成功が保証されている訳ではない。 だが、新たな選択肢が生まれるかもしれない。バーダット氏は、精管にジェルを注入する避妊法を開発しているコントララインという会社に期待している。このジェルは従来のパイプカットと同じように精子の放出を防ぐものだが、ある程度時間が経つとジェルが液化し、体内に吸収される。 このジェルはオーストラリアで初期の臨床試験中で、参加した男性は今後3年間追跡調査される予定だ。
性行為の直前に飲む、精子を泳げなくする避妊薬
精子が作られ、精管を通って膣に入った後も、精子は懸命に泳ぎ続けなければ、妊娠には至らない。 しかし、2023年2月14日付けで学術誌「Nature Communications」に掲載された論文で、性交の約30分前に服用し、約1日後には効果が切れる「オンデマンドの」経口避妊薬の可能性が示された。この薬は、可溶性アデニル酸シクラーゼ(sAC)と呼ばれる酵素を標的にしている。sACは、精子が泳ぎ始める合図を送る「スターター」の役割を果たしている。この酵素が無効にされると、精子は先に進めなくなってしまう。 「精子は動けずに、ただそこにいてピクッと動いているだけです」と、米ワイル・コーネル医科大学の薬理学者で、論文の著者の一人であるロニー・レビン氏は言う。 研究では、マウスに実験薬を投与したところ、15分後に不妊症になった。その翌日には、マウスの生殖能力は元に戻っていた。 「これはまだ誰も達成できていないことで、とても驚くべきことです。これこそが男性用の避妊薬なのです」とレビン氏は言う。 約1時間後に膣内で精子は死滅し、妊娠を避けることができる。 レビン氏らは、今後1~2年の間に、この酵素阻害剤をヒトに用いた臨床試験を行いたいと考えている。避妊薬が発売されるのに十分な結果が得られるまで、まだ10年はかかるようだ。