「市名変更」から5年 市「経済効果は75億円」 消費増とブランド損失抑制で/兵庫・丹波篠山市
兵庫県篠山市がブランド向上などを狙って旧国名を冠した「丹波篠山市」に市名を変更してから1日で5年。同日、市は市名変更の効果を検証し、地域経済への影響額は変更前の予測から約11億円増となる39億円が見込めると発表した。また、市名を変えず、以前からあった農産物の「丹波篠山ブランド」が失われた場合の損失額と、変更によるブランド向上によって単価が上昇した12億円を合わせ、計35億円の損失を抑制。2つを合わせて以前の予測から23億円増の約75億円の効果になると分析した。 「攻め」に当たる経済波及効果については、市が業務を委託した日本統計センター(北九州市)がまとめた。 同センターは丹波地域を除く兵庫や東京、大阪、名古屋、福岡などの6000人のモニターを対象にした調査を実施。市のイメージや訪問頻度、訪問時の消費額などを尋ね、市名変更後の経済波及効果を算出した。また、消費額が増加することによって誘発される原材料の購入や店舗の従業員の消費が増えるなどの間接効果も予測した。 変更前の2017年にも同様の手法で効果を予測。その際は約28億円としていたが、今回の調査では消費金額などが増加し、約39億円になったという。 「守り」に当たる丹波黒大豆をはじめとした特産物のブランド損失を防ぐ効果は市職員が分析した。 同市と他市のコシヒカリや黒大豆などの農産物の単価を比較し、以前から同市産の品目の方が高値で取引されていることから、差額を味と「丹波篠山ブランド」によるものと推定。17年の調査では、市名を変えず、産地表示に「丹波篠山」が使えなくなった場合、ブランド価値が下がるとして10年間の損失額を約23億円と試算していた。 変更から5年が過ぎ、17年の調査時よりも多くの品目の単価が上昇。変更しなかった場合、この上昇分も失われていた可能性があることから、合計で35億円分の損失を防げたとした。 検証を報告した市議会や、会見で記者から、「コロナ禍や昨今の価格高騰も要因では」と問われた市担当課は、「それらの影響もあると思うが、市名変更によるブランド向上も大きい」とした。 また、波及効果と損失額を合わせることに疑問の声もあったが、「17年と同じ手法でないと比較ができない」とした。 同市が「丹波」を冠した大きな理由の一つが、2004年に隣接する旧氷上郡が合併し、「丹波市」になったこと。丹波市の誕生により、篠山市が以前からブランドとして使用してきた愛称「丹波篠山(旧丹波国の中の篠山」が丹波市と混同(丹波市の中の篠山)されるなどの混乱が起きたほか、従来使用してきた産地表示「丹波篠山」も地図上にないことから使えなくなる可能性が指摘されたため、JAや商工会、観光協会などが市に変更を要望した。 実際、17年の調査で「丹波篠山」を丹波市と篠山市の両方を指していると回答した人は44・7%に上ったが、今回は15・9%になるなど、誤認率は低下している。 ただ市民の中には反対も多く、18年には変更に賛成、反対の団体などが声を上げ、全国初となる市名変更を題材にした住民投票が行われるなど、大きなうねりが巻き起こった。住民投票の結果は、変更に「賛成」が1万3646票、「反対」が1万518票と拮抗。合併を伴わず、地域振興を目的にした市名変更は話題を呼び、全国ニュースにもなった。 賛成した人の主な理由は、「全国的な知名度がある」「ブランドが守れる」「経済効果が期待できる」「丹波市との違いが明確になる」などだった。 変更後すぐにコロナ禍が始まったが、都会から近い田舎として観光客が増加。黒枝豆シーズンの10月の観光客は、毎年最多を更新し続けており、昨年は72万人が訪れている。市名変更に加えて田園回帰の流れも後押しになったとみられる。 検証を受けた酒井隆明市長は、「かなりブランド力がアップしていることは間違いない。観光客や移住者も増え、予想された以上の効果が出てきている」とし、「賛成、反対があったが、住民投票をしてみんなで決めたのが良かった。この名前とブランドを生かし、まちを未来に引き継げるように引き続き取り組みを進めたい」とした。