【アジア】軍政と中国が協力関係強調 李首相と会談、メコン首脳会議で
ミャンマー軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官は6日、中国南部雲南省の昆明で同国の李強(り・きょう)首相と会談し、協力関係を深めることで合意した。ミンアウンフライン氏は大メコン圏(GMS)首脳会議に出席するため、2021年2月のクーデター後初めて訪中した。同会議には、タイなど4カ国の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の首相らも参加しており、中国が主導権を握る形でミャンマー問題が話し合われた。 李氏はミンアウンフライン氏との個別の会談で、「隣国としてミャンマーの平和と安定を望む」と話した。軍政による総選挙の実施に支持を表明。軍政は、選挙で誕生する次期政権に政治を委ねることが5項目のロードマップ(行程表)の最終段階だとうたっており、中国もこれに合意しているという。 軍政の発表によると、ミンアウンフライン氏は中国国境近くなどで国軍への攻撃を続けている3つの少数民族武装勢力(ミャンマー民族民主同盟軍=MNDAA、タアン民族解放軍=TNLA、アラカン軍=AA)について言及した。国軍は北東部シャン州北部や西部ラカイン州などで劣勢に立たされており、中国の仲介による停戦に期待をにじませた。 ミンアウンフライン氏は、「武装勢力の大黒柱である国境を通じた密輸を根絶しなければならない」と訴えた。中国との国境貿易拠点の支配権が各勢力に奪われる中、李氏からは「国境貿易拠点は政府が管理しなければならない」との発言があったという。 軍政は国際的に認められておらず、クーデター後のミンアウンフライン氏の外遊は限られていた。ミャンマー問題を協議する21年4月のASEAN臨時首脳会議(開催地はインドネシア・ジャカルタ)後は同地域のサミットから締め出され、22年9月にロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談した後は目立った動きがなかった。中国もミンアウンフライン氏の招待を避けていたとされるが、今回の訪問で「外交デビュー」を演出しようとしているもようだ。 ■中国主導のミャンマー関与 ミャンマー問題が深刻化する中、国際的な調停役としては当初、同国が加盟するASEANに期待が集まったが、メンバー国の足並みはそろっていない。今回のGMS首脳会議にはミンアウンフライン氏と他ASEAN4カ国の首相が同席しており、中国主導のミャンマー関与が進む可能性がある。 今回の会議の主な出席者は他に、カンボジアのフン・マネット首相、ラオスのソンサイ首相、タイのペートンタン首相、ベトナムのファム・ミン・チン首相。ミンアウンフライン氏は、カンボジア、ラオスの両首相とも個別に会談した。 ミンアウンフライン氏は今回、「中国の招待」で同会議に出席している。同会議は原則的に3年ごとで、オンラインで開催された21年9月の会議にも参加していた。 ミャンマー問題に関し、中国の関与への期待もある。混迷する情勢に対して国際社会は有効打を見つけられずにいる。ASEANと日中米ロなどが10月に開いた「東アジアサミット(EAS)」では、ASEAN首脳が中国、インドをはじめとする近隣国に関与強化を求めたことを「歓迎する」と議長声明に盛り込んでいた。 ■米中対立激化の懸念 ただ、中国のミャンマー関与には不安も伴う。軍政および国軍の最高指導者との接近は軍政容認と捉えられかねず、抵抗勢力からの反発は免れない。中国が介入を強めれば、方針が異なる米国との摩擦が強まる恐れもある。大国間の対立に巻き込まれることを避けるために「中心性」をうたうASEANを揺らしかねない事態に発展することも考えられる。 米中関係を専門とする米バックネル大学の朱志群(しゅ・しぐん)教授は、シンガポールの華字紙「聯合早報」系列の英語版電子雑誌「シンクチャイナ(思想中国)」が6日に掲載した論説で、「ミャンマーの内戦が危機対応におけるASEANの分断と無効性を目立たせてしまう」と指摘した。 ASEAN加盟国では、ミャンマー国軍にインドネシアとシンガポール、マレーシアが厳しい姿勢を示す一方、タイやラオス、カンボジアは融和的とされる。今年まで、どの国が議長国となっても大きな成果を示せなかった。 米国では、共和党のトランプ前大統領が大統領選を制して返り咲く。「アメリカ・ファースト」を掲げ、前任期中には米中対立が高まった。イスラム教徒少数民族ロヒンギャの弾圧に対して国軍関係者らに制裁を科したこともある。ミャンマー問題に対する関心度合いは不透明だが、中国への対抗意識がASEANに波及する可能性もある。