「友人の幸せ報告に気持ちがざわつく……」そんな時どうする? スキンケア研究家・三上大進、人を羨む感情とどう向き合うか
すべての人の人生に「タッパー」がいる
――自分の足りなさにばかり目がいってしまい、もっと頑張らなきゃ、と一人で空回りしてしまうこともあります。 三上: その気持ちもわかりますよ。でも私の場合は、パラリンピックの取材をしたときに考え方が変わりました。 視覚障害の水泳選手は、ターンやゴールのタイミングを目で見て知ることができない。そのため、タイミングを教える「タッパー」という人たちがいます。プールサイドに立っていて、ターンのタイミングがきたら、スポンジのようなものがついた棒で、選手の頭をポンと叩く。タッパーがいなければ、選手は泳ぐこともできません。タッパーにとっても選手は大切な存在で「選手が目標に向かって頑張る、その通過点に自分がいられることが幸せ」と思っていらっしゃるそうなんです。その関係性って、とても素敵。そう思ったとき、どの人生にも、それぞれのタッパーがいるのではと思うようになりました。 一人で何でもできる人なんて、いない。一人で頑張って評価されているように見えても、必ず通過点で、誰かの力を借りているのではないでしょうか。「あの子が資料の準備を手伝ってくれたから、私がプレゼンの場に立つことができる」「呼び込みをしてくれた人がいるから、イベントをすることができる」など、日々の出来事から、人生のさまざまな節目に至るまで。そう思うと、おのずと周りの人たちへの感謝の気持ちが湧くし、自分一人で何かを完璧にやり遂げなければいけない、なんてことはないんですよね。
「気持ちがざわつく自分」に気づくことが大切
――30代に入ると、結婚や出産などのライフイベントを迎える人も増え、SNSで友人の投稿を見るのがつらい、気持ちがざわざわしてしまう、という人もいます。三上さんはSNSを見て、気持ちがざわざわ、もやもやすることはありますか? 三上: あります。まさに、私も同じ。結婚したいし、子どもが欲しい。でもパートナーがいないし……まあそれは頑張れよって話なんですけど。私は恋愛対象が男性ですが、男性同士のカップルが子どもを持つにはハードルがありますからね。 人との違いも含めて自分のことを許して、好きになったつもりだったけれど、この年齢になって改めて、子どもを産めないし、家族を持てないのかな、って考えると、まだ自分にがっかりしてしまう一面がありました。特にここ1、2年かな。だから、その気持ちはすごくわかります。でも、一番大切なのは、そういう「ざわざわ、もやもやしてしまう自分」がいると気づいていること。自覚があれば、自分を守る準備をすることができるから。 はっきり言って、何より大事なのは自分自身です。もちろん友達の幸せな報告を見て「おめでとう!」と思うのは尊いことだけど、それがあなたを傷つけるなら、ミュートにしてしまえばいいと思う。それで友情が終わるわけではないですもんね。 自分以外の人生が眩(まぶ)しく見えることはあります。家族でキャンプに行けるんだ、素敵だね。不妊治療終わったんだ、おめでとう。でも……いいな、羨(うらや)ましいな。それでも私が生きているのは「私」の人生だから。後で振り返ったときに、良い人生だったと思えるようにすることにフォーカスするほうがいい。誰かの幸せ報告は、その人の人生において大切なこと。私は、私の人生で素晴らしいことを見つけなきゃ。 いつか自分もこういう家庭を持ちたいな、とか、子どもを持てなかったとしても、次の世代の子どもたちに向けて、私は何ができるだろうと、今は考えています。羨ましいという感情をどうポジティブに変えて、自分の財産にしていけるかが大切ですね。
⚫︎三上大進(みかみ・だいしん)さんのプロフィール スキンケア研究家。大学卒業後、外資系化粧品会社でマーケティングに従事。2018年に日本放送協会入局。2018平昌、2020東京パラリンピックにてレポーターを務める。生まれつき左手の指が2本という、左上肢機能障害を持ち、自身のセクシャリティがLGBTQ+であることをカミングアウトしている。スキンケアブランド「dr365」をプロデュース、運営。 ◼︎『ひだりポケットの三日月』 著:三上大進 発行:講談社 定価:1,540円(税込) ©講談社
文:塚田智恵美