アングル:米で服役や保護観察中の女性、中絶医療にアクセス不能な現実
Anastasia Moloney David Sherfinski [リッチモンド(米バージニア州) 21日 トムソン・ロイター財団] - 米国で人工妊娠中絶の権利に関する法的な助言を電話で行っている弁護士のエリザベス・リング氏にとって、しばしば最も難しいケースとなるのは、刑務所に入っていたり、仮出所や保護観察の下にあったりする女性からの相談だ。 連邦最高裁が2022年6月、中絶を憲法上の権利と認めた「ロー対ウェード判決」を覆す決定をして以来、リング氏が担当するこの「リプロ・リーガル・ヘルプライン」には、中絶規制で悩む苦しむ女性からの電話が殺到している。 中絶の権利を提唱する市民団体「if/when/how(イフ・ウェン・ハウ)」が設置したリプロ・リーガル・ヘルプラインにかかってくる電話は毎月最大で300件にも上る。リング氏は「(最高裁の決定で)中絶の権利が失われたことで生殖問題に関して全般的な不安や混乱に陥る人々が増えた」と述べた。 一方でリング氏によると、関係法の改正が迅速に行われる場合が多いため、現行法上の権利を確認する作業は法律の専門家でさえ非常に困難となっている。また各州で規制が全て異なるため、当事者がどこに住んでいるかで権利の内容も非常に異なるという。 そうした中でリプロ・リーガル・ホットラインには、服役中ないし仮出所、保護観察中の女性からの問い合わせが増え続けている。彼女たちが、州をまたいで中絶医療を受けなければいけない場合の、法的権利や潜在的なリスクは不明確だ。 イフ・ウェン・ハウは6月にまとめたリポートで、こうした女性は中絶医療を「全く受けられない」事態が頻繁に起きていると分析した。 仮出所や保護観察などで何らかの監視下に置かれた女性が、中絶の規制が厳しい州からそれほどでもない州に移動する際にはさまざまなリスクを伴う。 リポートは、中絶を禁止している州で仮出所中に中絶医療を受けることを望んだある女性の例を取り上げている。結局彼女は、中絶手術を受けるため仮出所の条件を破って800キロを移動するという、「一か八か」の賭けに出るのが唯一の選択肢だと判断。何か問題が起きれば「その時はその時で何とかする」ことにした。 リング氏は「場合によっては別の州に移動することが唯一の選択肢だが、彼女たちは自由に動けない。だから中絶反対派かもしれない保護観察官と交渉してチャンスに賭けるか、(条件違反という)本当のリスクを背負って州を移動するしかない」と述べた。 <より高いハードル> 全米で刑務所や他の拘束施設に入っている女性は約20万人、仮出所や保護観察中の女性は80万人余りに達する。入所時に妊娠している女性の比率は5―10%と推定されている。 そして最高裁がロー対ウェード判決を覆す前から、服役中ないし仮出所や保護観察中の女性は、一般女性よりも中絶医療のハードルは高かった。 幾つかの州は収監された女性の中絶を認めていなかったし、多くの州でも中絶が許されるのは妊娠初期の3カ月目までに限られていた、とリング氏は説明する。 非営利団体プリズン・ポリシー・イニシアチブが今週公表した分析結果に基づくと、何らかの中絶規制を導入している州で仮出所もくしは保護観察中の女性の5人に4人以上は、移動制限が標準的な条件として盛り込まれている。 同団体のワンダ・バートラム氏は、監視下に置かれている人は担当係官を信用しない傾向があり、そもそも移動願いを出せる制度があっても、実際に利用しようとしない可能性があると指摘。「服役中の女性も、そうした要求を出したり、何か特定の言動をしたりすると罰を与えられるかもしれないと疑心暗鬼になっていて、自分たちがどこまで権利を行使できるか見極めようとさえしない」と付け加えた。 また仮出所や保護観察中の女性に移動が認められたとしても、承認が遅れれば州によっては合法だった中絶が違法になりかねない。受けられる医療の種類も薬で済むか、外科手術を強いられるのかの違いが生じるだろう。 プリズン・ポリシー・イニシアチブによると、例えば8週目でやっと妊娠が分かったサウスカロライナ州の保護観察中の女性がいた場合、中絶医療のためには別の州に向かう必要があるが、移動許可を得るのに2週間かかれば、手術しか選択の余地がなくなってしまう。 服役中の女性については、中絶を含む医療行為を受けられるかどうかは、担当刑務官の意思や、刑務所に受刑者の移動のための旅費を支給する予算があるかなどに左右される面もある。 人権擁護団体、米自由人権協会(ACLU)のイリノイ支部などが3月に公表した調査リポートによると、同州内の100近くの郡にある刑務所には、受刑者による中絶や生殖医療の利用に関する統一的で整合性のある規定は存在しなかった。 同支部幹部でリポートの共著者のエミリー・ワース氏は、最も衝撃的だったのは中絶医療のアクセスについて明文化された規定が一切なかった刑務所の多さで、受刑者が中絶を必要とする可能性に対する備えが全くないことを示していると憤りを示した。 一部の刑務所は、中絶費用や現地までの護送費用、旅費を受刑者に負担させているが、多くの受刑者はそうした支払いの能力はない。 ワース氏は「服役中の大半の人々にとって(中絶医療に)アクセスする上でこれは極めて重大な障壁になっている」と述べた。