北海道美瑛町、危ぶまれる農業と観光の共存
農家のいら立ちと抗議
農家が恐れるのは、私有地に土足で踏み込まれるという精神的な苦痛に加えて、農作物の病気を持ち込まれることだ。農作物の病気は、靴や自動車のタイヤについた土から持ち込まれる。農作物が一度汚染されると収穫ができなくなる。多大な経済的な被害は、農家の生活と農業の存続を危うくする。「町は何をやっているのか? 農家が観光に協力する必要があるのか?」と声を上げる農家は限界に来ている。 事件は2013年に起きた。観光のシンボルである丘の樹木の幹に、赤いスプレーで×印が2つ書かれていた。畑と木を所有する農家が観光客に抗議の意を示したのだった。この事件はNHKでも取り上げられ、町を揺るがせた。味わいのある樹木は格好の被写体となる。
試される美瑛町
丘のアクセントとなる樹木は、もともと畑の境界線を示したり、家畜をつなぎとめておいたりする役割をになっていたが、いまとなってはそんな役割はない。農家にとっては必要のない木だが、観光に携わる住民にとっては大切な観光資源だ。 ある宿泊施設の経営者は「行政が積極的に観光の町にしてきたわけではないので、農家さんあっての美瑛なんです。なのに、その農家に敬意を示さないまま今まで来てしまった。農業と観光業の間には、わだかまりが出来てしまっているんですよ」と打ち明けた。 美瑛町は、フランスの「最も美しい村運動」をモデルとした「日本で最も美しい村」連合に参加しており、2015年6月にその定期総会が同町で開かれる予定だ。 同連合の参加要件に「美しい景観に配慮したまちづくりを行っている」「住民による工夫した地域活動を行っている」という項目がある。名実ともに美しい町になれるのだろうか? いま人口1万人の町の実力が試されている。