パチンコで得た“あぶく銭”で「ガチャ課金」 普通の大学生に負のスパイラルが導く「ギャンブル依存症」へのトビラ
米大リーグで活躍する大谷翔平選手の銀行口座から元通訳の水原一平被告が“ギャンブル”に使用するために不正送金を行っていた事件は国内外に大きな衝撃をもたらした。 オンラインゲームユーザー過去1年で“課金”約49%、ガチャ利用は約32%… しかし、ギャンブルのために罪を犯した人は水原被告以前にも多くいる。公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」が発行する「ギャンブル等の理由で起こった事件簿(平成第3版)」には、平成以降に起きたギャンブルを動機とした横領、強盗、窃盗、詐欺等の事件699件が記録されている。 社会的なリスクをはらむ「ギャンブル依存症(病的賭博)」。厚生労働省は2017年に実施した調査から、過去1年以内にギャンブル依存が疑われる人は約70万人(成人の0.8%)に上るという推計を発表している。 この連載では、会社員のセイタ(28)がギャンブルに飲み込まれていく様を追体験する。第3回では、パチンコに魅せられたセイタが、より身近なスマホゲームの「ガチャ課金」でお金を溶かしていく……。(全6回) ※この記事は染谷一氏の著書『ギャンブル依存 日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか』(平凡社)より一部抜粋・構成。
未熟な学生が「堕ちて」いく
社会経験の少ない学生が「あぶく銭」を手にすれば、必然的に散財が始まる。セイタは欲しい服やアクセサリーを次々に手に入れた。 遊び方も変わった。生まれつき酒が飲めない体質なのに、キャバクラに行ったり、風俗店に出入りしたりした。時には大学の同級生を誘い、彼らの分まで勘定を払ってやった。友達が知らない世界を知っている自分――。周囲から一目置かれる優越感は心地よかった。 未熟な若者は、どんどんラクな方向へと堕ちていく。 日々の生活はバイトとパチスロに支配され、セイタの足は大学から遠のいた。めったに授業に出ず、課題の提出さえも怠るようになった。高校卒業まで、窮屈ながら品行方正な生活を送ってきたセイタの価値観は、すっかり別人のように塗り替わっていた。 バイトやパチスロ、キャバクラや風俗などに遊びに行く以外は、部屋にこもってスマホのソーシャルゲームに興じた。当時、流行していた人気ゲームにはとくに入れ込んだ。自分でつくったチームで敵を倒しながら、「ダンジョン」と呼ばれるステージを進んでいくタイプで、基本プレーは無料だが、当然ながらゲーム会社の収益源となる「課金ガチャ」のシステムが存在した。 ガチャで、自分が求めるレアキャラを獲得できる確率は低い。狙った獲物が当たるまで、延々とガチャを引き続けてしまうプレーヤーもいた。当時の料金設定では、1回ガチャを引くたびに、ゲームアカウントに紐づけてあるクレジットカードの口座から100円が引かれた。このときのセイタにとって、1回100円のガチャは大した負担ではない。だが、それが300回、400回と続けば……。 「たとえば、手元に6万円あったとしたら、1万円ぐらいをゲームに使っても、日々の生活にまったく影響は出ません。だけど、欲しいアイテムがなかなか出ないと、延々とガチャを引き続けてしまう。あっという間に課金額は2万円、3万円と膨らんでいき、そのうちに「1万円あれば生活できる」と自分に言い聞かせるようになり、気がついたら5万円を突っ込んでいた、などが普通になっていました」と当時を振り返る。