上田誠仁コラム雲外蒼天/第50回「刹那の差を生んだ箱根駅伝予選会~それぞれのドラマを紡いで~」
ヒューマンドラマが紡がれて
箱根駅伝予選会の2週間後には、大学駅伝日本一決定戦ともいえる全日本大学駅伝が控えている。近年の高速化に対応しようと、スピードの適応性を高めて挑む必要がある。 トレーニング医科学の進歩とともにトレーニング方法もブラッシュアップが図られ、その結果、スピード化が各チームの平均タイムの向上として表れている。厚底シューズやカーボンプレート入りスパイクの登場が高速化にさらに拍車をかけていることに疑う余地はない。 しかしながら、最終的には鍛え抜かれた肉体と精神の戦いがすべてを凌駕すると信じている。その中で今回の箱根駅伝予選会を俯瞰すれば、東海大や中大などは全日本大学駅伝で覇を競い合うためにスピード対応を重視したのかもしれない。 今回のように過酷な気象条件にあってはベーシックにスタミナ重視の有酸素系トレーニングの厚みを優先し、慎重にレースを進めたチームに軍配が上がったと捉えている。 その筆頭が2年ぶりに本戦復帰を決めた専大であろう。レース展開以上に、チームという集団の熱量(箱根駅伝に対する思いの丈)が、培ってきた走力を存分に発揮させ総合2位で出場権をもぎ取っていったからだ。 箱根駅伝10区間の激走まで2か月半。山を含めたそれぞれの区間の役割と特性を踏まえた中で、タスキをかけての継走戦となる。今回の予選会のように、机上の計算と下馬評が的中しないほどに選手を翻弄する気象条件でないことを願いたい。 とはいえ、いかなる条件下であろうともリザルトを受け止める覚悟が必要であろう。なぜなら、スタートラインに立つまでは最善を尽くし万全を期す。そしてレースは死力を尽くし最良の結果を求めて挑んだ中での結果だからだ。 予選会参加44チームとシード10校を含む54大学以外の関東学連加盟校からも箱根駅伝の2日間の補助員が動員される。前回大会は64大学計1794人であった。 箱根駅伝当日は黄色のジャンパーに身を包み、沿道の走路補助員として走路及び沿道の観衆のみなさんの安全確保を担っている。 タスキをかけた継走戦と先ほど書かせていただいた。箱根駅伝を走る幸せや喜びは、20チームの代表選手だけのためにあるのではない。関東学連加盟校の同じ学生たちが箱根駅伝に懸ける思いを共有していることを、少しだけタスキのどこかに込めて走っていただきたいと願う。 勝者を常に讃えることはいとわないが、箱根駅伝はスポットライトの当たらぬ中にもそれぞれのヒューマンドラマが数多く紡がれているからだ。 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。
月陸編集部