せまい日本、そんなに急いでどこへ行く? 今こそ見直したいフェリー「スロートラベル」の魅力 旅客獲得に向けた戦略とは
船内施設の充実
一般的に、経済が成長するとともに、旅客設備やサービスに対するニーズが高くなる。フェリーも、世代交代にあわせて、その時代の要求に見合った設備へと進化していった。 例えば、2023年にデビューした大阪~別府航路の「さんふらわあ くれない」は、最も安い基準運賃でも、 「カプセルホテルなみのベッド」 が用意されている。また、プロジェクトマッピングも楽しめる吹き抜けのアトリウム、売店・レストラン、パウダールーム、展望浴場、キッズコーナーとパブリックスペースも充実している。 大阪~別府航路は、大阪発も別府発も夕方に出航して早朝に到着するダイヤでありながら、ここまで設備を充実させているのだ。旅客サービスに対する運航会社の気合の入れようが伝わってくる。 もちろん、どの航路も近年旅客サービスに力を入れており、レストランのメニューひとつとっても、地域の食材や郷土料理を取り込んで特色を出している。 航路によっては昔ながらの雑魚寝部屋もあるが、床面の配色を工夫してスペースを区切り、頭部にパーテーションを設けるなどしてプライベートの確保に配慮している点が、明らかにひと昔前とは異なるといえよう。
国内フェリー航路の役割
日本人の国内旅行はもちろんインバウンドにおいても、地域観光振興に向けた国内フェリー航路の役割は大きい。 中長距離フェリーが、単なる移動手段としてだけでなく、旅行客にゆったりとした豪華な旅行を提供する役割を担っているのはいうまでもない。また近距離フェリーは、フェリーでしか訪れることができない島へのアクセス手段としても期待されている。 政府は、2030年で訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円というインバウンドの目標を掲げている。 年間6000万人まで訪日外国人旅行者が増えると、2023年の約2500万人からすると2倍以上となり、現行のいわゆる観光地だけではキャパシティーオーバーとなるのは明白だ。年間6000万人時代となると、今まであまり訪れなかった島まで、間違いなく裾野が広がるだろう。混雑した有名観光地ではなく、静かな日本を満喫したい層には島はもってこいといってよい。 また、近距離フェリーの秘めるポテンシャルは島へのアクセスだけではない。風景を楽しんだり、海洋生物に出会ったりする機会を提供できるのもフェリーならではといえる。 最近「富士山ローソン」が映えスポット化して大騒動となったが、駿河湾フェリーの船上からの富士山もなかなかの美しさだ。イルカやスナメリといった海洋生物との出会いは、タイミング次第かもしれないが、 ・むつ湾フェリー ・伊勢湾フェリー ・桜島フェリー などでチャンスがある。