致死率3割の"劇症型感染症"はどこまで増える? 「人食いバクテリア」の正しい怖がり方
ちなみに、致死率が30%近いという壊死性筋膜炎だが、早期に処置すれば助かるのか? また、治療に有効な特効薬などはあるのだろうか? 「もちろん、早期に診断して処置ができれば、救命は可能で、私自身もそうした救命例を何度も経験しています。 ただし、抗生物質も併用はしますが、治療で一番大事なのは薬ではなく『外科的』な処置です。つまり、患部をメスで切り開き、溶けて壊死してしまった部分を取り除いてあげるしかない。 それも、可能な限り早い段階で行なうことが必要で、手遅れになれば手足の切断が必要になる場合もあります。全身に広がった患部にひとつひとつメスを入れ、壊死した部分を取り除くという手術はかなり過酷です」 ■大事なのはごく普通の感染症対策 知るほどに恐ろしい劇症型溶血性レンサ球菌感染症だが、本当に感染例が増えているのか? また、何か有効な予防方法はあるのだろうか? 「厚労省や国立感染症研究所のデータを見る限り『絶対数として増えている』というのは事実だと思います。WHO(世界保健機関)によれば、イギリスやフランスなど、世界的にも感染者が増加傾向にあるようですが、果たしてその要因がなんなのかはハッキリしない。 ただし、昨年に全国で過去最多の941例が報告されるなど増加傾向にあるとはいえ、約1億2000万人という日本の人口の『分母』で考えれば、依然として『極めてまれにしか起きないマイナーな病気』であるという点は正しく理解する必要があるでしょう。 また、同じく増加傾向にある咽頭炎を含めた、溶連菌の感染対策に関しては、マスクやうがい、手洗いといった通常の感染症対策や、普段から衛生状態に気をつけるといった、ごく普通の対策しかありません。子供の溶連菌による咽頭炎からの感染で発症するといった心配もほぼ無用です。 なので、メディアが騒ぎたてて、不必要に人々の恐怖心をあおるべきではないし、皆さんがそうした報道を見て、むやみに心配する必要もありません」 感染症への対応で大事なのは「根拠のない楽観」でも「根拠のない悲観」でもなく、その病気を可能な限り正しく理解して正しく怖がることだ。 コロナ禍の教訓でもあったこの心構えを「人食いバクテリア」への対応にも生かしたい。 ●岩田健太郎(いわた・けんたろう)1971年生まれ、島根県出身。島根医科大学(現・島根大学)卒業。SARS(重症急性呼吸器症候群)、エボラ出血熱などの感染症対策に携わる。2008年より神戸大学に在籍、神戸大学医学部付属病院感染症内科教授を務める 取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社