致死率3割の"劇症型感染症"はどこまで増える? 「人食いバクテリア」の正しい怖がり方
■医師の間に正しい理解が広がっていない この恐ろしい病気を引き起こす溶連菌への感染はどのように起こるのだろう? 「子供がかかることの多い、喉の溶連菌感染は咳(せき)などの飛沫(ひまつ)によるケースが多いですが、壊死性筋膜炎につながる皮下組織への感染経路は、『接触感染』が主になります。具体的には、皮膚の小さな傷や炎症などから細菌が入り込んで感染するというケースが多いでしょう。 ただし、溶連菌に感染しても壊死性筋膜炎を発症するケースは非常にまれで、その原因が同じ『A群溶連菌』の中でもタイプの違いによるものなのか、感染する人間側の要因もあるのか、そのあたりはまだわからないことが多いというのが現実です。 新型コロナの重症化リスクは、超高齢者など、割とはっきりしていました。しかし、溶連菌の壊死性筋膜炎の場合は、糖尿病などリスク因子はあるのですが、全然健康な人でも起きうるし、この年齢だったら起こりやすいというのもはっきりしていません。 この『どんな人に起きやすいのかも、よくわかっていない』というのが、この病気の厄介な特徴でもあるわけです」 では、実際に壊死性筋膜炎を発症したら、どのような自覚症状があるのだろうか? 「ものすごく進行の早い病気ですから、発症したらあっという間。数時間とか、長くても1、2日程度で患者さんの状態は急激に悪化していきます。 ごく初期の自覚症状としてはともかく全身がしんどく、感染部位がものすごく痛くなるのですが、それで『何かおかしい......』となって、救急車で病院に来た頃には、すでに敗血症によるショック症状を起こして血圧が急激に低下している。 手足が腫れ、血液が酸性化して脈拍や呼吸が極端に速くなり、肺や腎臓、肝臓などの臓器、脳がやられて意識障害を起こしているケースも少なくありません」 さらに厄介なのは、非常にまれな病気であるため、初期段階の診断が難しいことだという。 「もちろん、われわれのように感染症の専門家で実際に症例を多く見ていればわかります。しかし、日本では最近まで医師の間でもこの病気の正しい理解が十分に広まっておらず、症例を説明する教科書にも『足がパンパンに腫れて真っ黒に変色した』写真が出ていました。 メスを入れるとドロドロと膿(うみ)が出てくると思っている医師も多かったですし、今も少なくありません。 ところが、この状態は"すでに手遅れ"で、発症の初期には手足が腫れていないケースも多いのです。 そのため、患者さんが『全身がしんどい』とか『手足がひどく痛む』と訴えても、医師にはその原因がわからず、結果的に手遅れになってしまったというケースが少なくありませんでした」