映画『憑依』主演のカン・ドンウォンにインタビュー──「実はコメディの演技が好きなんです」
次々と他人に憑依していく悪鬼と闘う新感覚のホラー映画『憑依』。その主演を務めたカン・ドンウォンにインタビューした。軽薄に見えつつ、実はトラウマを抱えている祈祷師をスタイリッシュに演じた役作りのポイントから今後のキャリアについても語ってくれた。 【写真を見る】ハイブリッドなホラー映画『憑依』のあらすじを写真でチェック
『憑依』のあらすじ
9月6日に日本公開される韓国映画『憑依』は、人気・実力ともにトップを走りつづけるスター俳優、カン・ドンウォンの主演作だ。今回彼が演じるのは、まったく霊感がないのに言葉巧みに依頼人をだまし、大金をまきあげるインチキ祈祷師のチョン博士。そんな博士のもとを、ユギョン(イ・ソム)という若い女性が依頼に訪れる。実はユギョンは本物の強力な霊視能力の持ち主、そして彼女の妹にはほんとうに悪霊がとり憑いており、それはとんでもなく凶悪なものだった──! ■コメディ要素もあるハイブリッドなホラー映画 まずはホラー映画に分類されるのだろうが、アクション映画の性格も強く、世代を問わず、ホラーが苦手な人であっても楽しく観られるだろう映画だ。ちなみにカン・ドンウォンが出演した悪霊退治映画には、すでに『プリースト 悪魔を葬る者』(2015)という作品がある。これはカトリック神父と神学生による悪魔祓いを描いた映画だったが、『憑依』はそうではない。ハイブリッドな新感覚ホラーと言えるだろう本作について、主演のカン・ドンウォンに尋ねた。 ──『プリースト』とは異なり、この映画では韓国の伝統的な祈祷師による退魔が描かれています。一方でヴィジュアル面では、西洋のファンタジーや、『インディ・ジョーンズ』のようなハリウッドの冒険映画の要素が入っているのがユニークですね。カン・ドンウォンさんご自身は、この企画のどのような点に興味を持って出演を決められたのでしょうか。 まさに今おっしゃったような理由から出演を決めました。韓国的な要素を持っていながら、ハリウッド的な要素もあるという点です。シリアスなだけの作品にするのではなく、軽さを加えているのも気に入りました。軽さと重さが絶妙に合わさっています。また、エンディングではちょっとマルチバースみたいな世界が展開されていますよね。これも新しくて面白い点だと思っています。 ■芸達者な俳優が集ったキム・ソンシク初監督作 監督は『パラサイト 半地下の家族』(2019)、『ただ悪より救いたまえ』(2020)、『別れる決心』(2022)の助監督を務めたキム・ソンシク。これが監督デビュー作となる。チョン博士とユギョン、チョン博士の助手のインベ(イ・ドンフィ)、彼らを助ける骨董品店店長のファン社長(キム・ジョンス)のチームのアンサンブルも見どころだ。さらに、BLACKPINKのジスが仙女役で文字どおり神々しい姿を見せ、その仙女の言葉を伝える霊媒師役のパク・ジョンミンは、ワンシーンだけの出演ながら圧倒的な存在感を見せる(ちなみにこの記事の終盤で言及する『戦、乱』で、カン・ドンウォンとパク・ジョンミンは本格的に共演する)。 カン・ドンウォンは持ち味を生かし、新時代の知的なアクションヒーローを造形。チョン博士は軽やかでありつつ、どこか暗さを抱えている。実際、物語が進むにつれて観客は、博士の重大な秘密を知り、最初思われたよりも彼がずっと複雑な人物だと理解するようになっていく。だがそうなる前、第一印象の彼には、カン・ドンウォンが過去に演じたキャラクターといくらか重なる部分もある。 ──『チョン・ウチ 時空道士』(2009)で演じたコミカルなところのあるタイトルキャラクターや、『華麗なるリベンジ』(2016)での詐欺師役と、どのような違いを出すのかは特に意識されたのではないでしょうか。 確かにチョン博士は、その2作のキャラクターと似ているところがありますね。ぼくはこのようなキャラクターを演じるのが好きです。コメディ演技が好きなんです。また、以前演じたキャラクターと似ている部分があるなら、その経験を活用することができる。だからチョン博士も上手く演じられるのではないかと思いました。とはいえ、以前のキャラクターとまったく同じにするわけにはいかない。違って見えるように努力しました。でもやっぱり似すぎてしまったなと思ったときは、撮りなおしをすることもありました。 ■俳優、そしてプロデューサーとしての今後のキャリア ──『チョン・ウチ』のころからずいぶんと時間が経って、カン・ドンウォンさんもキャリアが長くなりましたが、年齢を重ねた現在の俳優としてのご自分を、どのように感じておられますか。 そうですね。俳優の仕事を始めてからの時間のほうが、それより前の時間よりも長くなっています。以前は無我夢中でやっていたのが、今では余裕も出てきて、自分は演技者だという自覚も生まれています。経験を積んだことで、プロフェッショナルとしての自覚が持てるようになったということです。だんだんと、ですけどね(笑)。今撮っている作品は29本目の作品です。ずいぶんたくさん仕事をしてきたなあと思います。 カン・ドンウォンに取材するのは、『ベイビー・ブローカー』(2022)で彼が来日した2022年6月以来だ。あれから彼のキャリアにはいくつか大きな変化があった。それらについて尋ねてみた。 ──『憑依』の撮影のあと、独立して個人事務所を構えられましたね。今後はプロデュース業にも力を入れていかれるのではないかと想像していますが。 制作会社とマネジメントの会社をそれぞれ立ち上げました。プロデュースはすでにやっています。自分でも短いシノプシスを書いて、作家さんたちと一緒にシナリオ開発をしたりしています。マネジメントも上手く回っていますよ。 ──これまでは映画メインで活動されてきましたが、最近、配信作品のお仕事もされるようになっていますね。今現在、2本の配信作品への出演が発表されています。どのような理由から配信作品に興味を持たれたのでしょうか。 先ほど題名が出た『華麗なるリベンジ』のころから、シリーズ物を作ってみたいと思っていたんです。映画で使う台本は、だいたい2時間ぐらいの作品になる分量のものですが、撮っているうちにあれも撮りたい、これも撮りたいと、どんどんアイデアが出てきます。4時間とか6時間とかの長さの映画を撮って、6話に分けて発表したらいいんじゃないかという話をしていました。そのとき考えていたことと、今という時期がちょうど合ったということです。 ──そうなんですね。先ほどおっしゃっていた、撮影中の29本目の作品というのは、まだ情報が解禁されていない作品ですか。 いいえ、発表されていますよ。情報公開されている2本の配信作品のうちのひとつで、チョン・ジヒョンさんと共演している『北極星』(原題)です。その前の28本目の作品は、ことし配信開始されます。パク・チャヌク監督が製作されている『戦、乱』(原題)という映画です。この2作品もどうぞ楽しみにしていてください。 ドラマシリーズ『北極星』は来年ディズニープラスで配信開始、制作にはまさにカン・ドンウォンのプロダクションが参加している。『戦、乱』はNetflixで配信予定だ。カン・ドンウォンのさらなる飛躍を前に、まずは彼のスターカリスマとスタイリッシュな魅力を、『憑依』で堪能してほしい。 『憑依』 9月6日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー 配給:ツイン 著者プロフィール:篠儀直子(しのぎ なおこ) 翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』(青土社)など。 文・篠儀直子、編集・遠藤加奈(GQ)