朝ドラ「虎に翼」現代の女性弁護士はどう見ているか 100年前と変わらない旧態依然さに怒り
NHK連続テレビ小説「虎に翼」の視聴率が好調だ。第45話(5月31日放送)は世帯平均視聴率18・0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をたたき出し、右肩上がりの状況となっている。およそ100年前の女性の苦難を重層的に描き、現代にも通じることから広く共感を集めている。かつて歌手デビューを果たした平松まゆき弁護士に、ドラマをどのように見ているか寄稿してもらった。 【写真】久保田先輩、無念の決断も モデル?人物の意外なその後 「虎に翼」を見ている同業者は非常に多い。弁護士同士、会えば「虎に翼」が話題に上る。私も視聴者の一人であるが、つくづく偉大な女性の先輩方のおかげで今の私たちがいると思うと感謝の気持ちで胸が熱くなる。 しかし一方で、100年前と何も変わっていないという旧態依然の怒りを感じることもある。弁護士会務として各種委員会に出れば女性は私1人だけで周りは全員男性ということは珍しくない。実際のうちの弁護士会は男女比8:2であるが、実働している女性弁護士でいうと9:1になる。 そのため女性目線で問題点を指摘しても、どうしてそれが問題なのか分かってもらえない場面が多々ある。例えば弁護士会館という建物の中で法律相談を受ける際に、プライバシーに配慮しつつも、万が一のときのために隣室に事務職員がいる部屋で行いたいと声を上げたときだ。相談者には困難を抱えている人がおり、感情が爆発したり暴れ出したりすることがある。実際他県では、女性弁護士が個室で殴られるという事件が過去には起こっている。おそらく報告されていないだけで一度や二度ではないと思う。私自身、正直怖い目にあったことは何度かある。 そこで隣室に人がいる場所を提供してほしいと声を上げると、複数の男性弁護士から「なんで?」「静かな方が良くない?」などと、問題の所在が分かっていない発言が複数寄せられた。私はがっかりすると共に、もう二度と言わないでおこうという諦めの境地になった。なぜならこうした男性弁護士に理解や共感を求めようとすると、少なからず「甘い」とか「対応の仕方がまずくてなめられたんだ」等という、さらに聞きたくない声が返ってくるからだ。 そんなことはまだ可愛い方で、産休明けの部下である女性弁護士に不在の間手が足りなかったからか「もう子供を産むのは勘弁してくれ。」と言われたとの記事を読んだこともあるし、凄惨な性犯罪の刑事弁護を「勉強になるからレイプ犯の弁護はしてこい。」と言われ、新卒のうら若き女性弁護士が恐怖で泣きながら接見したという話も聞いた。 ドラマの中で寅子はかつて、何事にも疑問を持ち、怒り、声を上げていたが、次第に小さくなっていく姿を皆さんもご覧になっただろう。戦後の寅子は「君は謙虚だな。」とさえ評された。寅子に自分を重ねた女性法曹は少なくないのではないかと思う。 もちろん男性弁護士のすべてに理解がないというわけではないし、尊敬する素晴らしい先輩方はいる。男性に相談しても何も変わらないという態度の私こそステレオタイプの人間なのかもしれない。 今日、女性弁護士の比率からして全国的に女性の弁護士は多忙だ。そこはドラマで寅子が女性だからといって仕事を得られない苦労とは正反対で、ありがたいことである。と同時に、目の前の業務に追われて私は女性弁護士としての怒りを失いつつある。寅子の奮闘を目に焼き付けて、将来の法曹界のために諦めず闘う強さを持ち続けていたい。