「窪田正孝さんの写真をかたわらに」高評価ドラマ『宙わたる教室』脚本家が物語に込めたもの
秋ドラマナンバーワンという声も多い、窪田正孝主演のドラマ『宙わたる教室』(NHK総合、火曜22時ほか)。東京・新宿にある定時制高校の科学部を舞台とする本作は、伊与原新の同名小説が原作だ。 【写真】バイクに乗った不良にからまれても冷静な窪田正孝演じる藤竹 大阪府の実在する定時制高校の科学部が2017年に科学研究の発表会「日本地球惑星科学連合大会・高校生の部」で優秀賞を受賞。彼らの実験装置がある人物の目に留まり、「はやぶさ2」の基礎実験に参加することになる――。原作は、このまるでフィクションのような実話に着想を得て生まれた物語なのだ。 ドラマでは原作に忠実でありつつ、定時制高校の教師と生徒の人物像が立体化され、人間関係がより濃く絡み合って、魅力的な作品に仕上がっている。原作付き作品の理想のあり方とも言えるだろう。 本作の脚本を手掛けたのは、映画『愛がなんだ』『ちひろさん』で知られる澤井香織さん。連続ドラマの脚本を手掛けたのは、今回が初だ。いったいどのように執筆が進められたのか、澤井さんにインタビューした。
窪田正孝さんの写真を見ながら脚本を書いた
――澤井さんが連続ドラマを手掛けられるのは今回が初めてだそうですね。本作の脚本を担当することになったきっかけは何だったのでしょう? 澤井香織(以下、澤井):昨年12月末に、制作統括の神林伸太郎さんからお話をいただいて、すぐに原作を読みました。しんとした夜の静けさの中に、ふと光る煌めきのようなものが満ちていて、とても素敵な物語だと思いました。神林さんとは今年3月に放送されたNHK「夜ドラ」枠の『ユーミンストーリーズ』第3週「春よ、来い」(宮崎あおい主演 ※「崎」は立つ崎)でご一緒していましたし、監督の吉川(久岳)さんとは、今年5月に放送されたNHK特集ドラマ『むこう岸』でもご一緒していたので、あまり気負わず取り組むことができました。 ――原作は章ごとに主人公が変わりますが、ドラマでは窪田正孝さん演じる理科教師の藤竹叶(かなえ)が主人公です。 澤井:原作が7章で構成されているのに対しドラマは10話だったので、エピソードを膨らませる必要がありました。プロデューサーや監督たちとも話し合いながら、10話を通して描くなら、藤竹を軸に掘り下げていくのがよいのではないかということになりました。科学部と藤竹の変化を並行しながら描けたら、と。 原作を読んで藤竹に最初に抱いたのは月のようなイメージです。科学部のメンバーたちは、燦々と輝く太陽の光は眩しすぎて、少し気後れしてしまう人たちなのではないかと思いました。私自身もそういう部分があると思います。でも月の光には、直射日光にはない心地良さがある。暖かすぎず、かといって冷たいわけではない。メンバーたちが集まる物理準備室がそういう場所になったらよいなと思いました。 ――太陽の光は強すぎてちょっと苦手で、月のほうが落ち着くというのはわかります。窪田さんが演じた藤竹先生像がまさにそれを体現していますね。 澤井:藤竹には当初、飄々としていながらも内に譲れない熱さを秘めた人、というイメージを抱いて書き始めました。密かにPC画面の片隅に窪田さんの写真をお守りのように置きながら書いていたのですが(笑)、7話を書いている途中で撮影が始まりました。 監督たちから、窪田さんの藤竹はすごく人間的で魅力的だよとお聞きしていて、1話のピクチャーロック(音楽をつける前の映像編集だけ完成させたもの)を見せていただいたら、本当にその通りだなと。藤竹自身に迫っていく後半は窪田さん演じる藤竹に助けられつつ、進めていきました。