「窪田正孝さんの写真をかたわらに」高評価ドラマ『宙わたる教室』脚本家が物語に込めたもの
原作者の伊与原さんは藤竹先生に似ている
――窪田さんの藤竹先生から、どんなイメージが広がったのでしょうか。 澤井:もともと原作から、藤竹の人や物事へのフラットで科学的な眼差しを感じていましたが、それがより鮮明になった感じです。科学って、好き嫌いで判断するものでも、感情で変わるものでもなく、とても静かで普遍的で、動じない。でも同時に、揺らぎや熱を抱えたひとりの人間である藤竹を、窪田さんはしなやかに体現されていると思いました。 それでいうと原作者の伊与原さんも、少し藤竹に似た空気を持っている方だなと思います。 ――伊与原さんは藤竹先生に似ている? 澤井:伊与原さんも藤竹と同じく、惑星科学の分野の研究をしていた方です。作中に登場する実験などについても、完全なる文系の私の拙い質問に根気よく分かりやすく答えて下さいました。 客観的に事実を語る一方で、目線がフラットだからこそ、無機的なものに有機的なものを見たりもする。第3話で、火星探査車「オポチュニティ」を“この子”と呼ぶ場面がありますが、科学者がものを見る時の詩人のような一面は、とても素敵だなと思います。
藤竹先生は「観察する人」
――藤竹先生も、生徒たちの心情に寄り添おうとしているわけじゃないのに、結果的に生徒たちの心を救っていますもんね。 澤井:藤竹は「観察する人」で、生徒たちの悩みに対して解決法を具体的に示すわけではありません。「私の世界から見るとあなたの世界はこう見えていますよ」とだけ伝えて、相手に気づくきっかけを与える。それが彼の寄り添い方で、複雑な問題を抱えた生徒たちに合っているんだと思います。 ――物語の後半となるこれから、藤竹先生の過去が徐々に明かされていくわけですが、第1話の冒頭で、藤竹先生が有名大学の元助教で、優秀な科学者であったことが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員らしき人物(相澤)との会話でにおわされていましたね。 澤井:科学者であった藤竹が、なぜ定時制高校の教員を選んだのか――科学部の行方と共に、藤竹の言動や少しずつ明らかになる過去を照らし合わせながら、彼にとっての“本当の実験”とは何なのか推測して見ていただけたらと思っています。 ――藤竹先生がみんなを救っていくヒーロー教師の物語じゃなくて、藤竹先生にも何か欠けたものがあって、それぞれ凸凹が集まって1つのピースになっていく感じが、冒頭のシーンがあることですんなり理解できます。 澤井:きっと全話を観た後にもう一度一話から見返すと、より、そう感じられるかもしれません。 ◇続く後編「秋ドラマ最注目『宙わたる教室』脚本家が語る、感動の名シーンの裏側」では、さまざまな名シーンが生まれた背景に迫る。 ドラマ10「宙わたる教室」 NHK総合 毎週火曜 夜10:00~10:45 (再)NHK総合 毎週金曜 夜0:35~1:20(木曜深夜) Prime VideoでもNHK放送の翌週水曜0:00に最新話を配信
田幸 和歌子(フリーランスライター)