東京銭湯ツーリズム──羽田空港周辺で味わう「銭湯特区」大田区の公衆浴場文化
JR蒲田駅から北東に歩くと呑川(のみかわ)がある。その川に架かる橋を越えるあたりで赤く輝く「ゆ」の字が見えてくる。温泉銭湯「ゆ~シティー蒲田」のイルミネーションだ。 ここ「ゆ~シティー蒲田」でうれしいのは露天風呂。開放的な空気の中で黒湯の温泉に入ることができるのだ。露天といっても都会の真ん中。ちゃんと屋上は目隠しされているので安心してほしい。しかし浴槽はしっかり浴室の外にあり、オープンエアの醍醐味を満喫することができる。温泉の温度は気持ち熱め。十分にあたたまったあとは、そばのベンチで休憩するのが気持ちいい。 現オーナーの中村康太郎氏は学生時代、ラグビー部に所属していた。練習はハードだが、クタクタに疲れて帰ってきても、家業の黒湯につかると疲労が回復した。その効用を身をもって体験しているだけに、自信を持ってお客さんに勧めることができるそうだ。 屋内の浴室は白湯。中心の浴槽にはゴージャスなジャグジーが設けられている。その両脇にはバイブラバス、電気風呂があり、それぞれつかっていくと黒湯の効果と相まって、疲労が回復していくのを感じる。筆者は前日に10km以上歩いて疲れ切っていたが、こちらに入浴するとすっかり身体が軽くなった。 ちなみに「ゆ~シティー蒲田」では旅行者が大きなスーツケースを持っていても、カウンターで預かってくれるそうだ。 蒲田温泉は午前10時から。ゆ~シティー蒲田は午前11時、はすぬま温泉は午後2時からの営業。羽田空港に到着した後、ホテルのチェックイン時刻まで入浴して疲れを癒やすのもいいし、あるいは空港に向かう途中で寄り道をして、帰りの旅に備えるのもおすすめだ。
銭湯のマナーとは
銭湯は「公衆浴場」と呼ばれるだけに、誰でも気軽に入ることができる。日本の入浴施設ではタトゥーがあると入館NGのケースも多いが、銭湯は問題なくOKで、簡単なマナーを守りさえすれば敷居は低い。 そのマナーだが、まず銭湯では水着の着用はダメ。前が気になる人はタオルで軽く隠すといい。もっとも日本には「裸のつきあい」という言葉がある。ローマ皇帝ハドリアヌスはしばしば公衆浴場を訪れて庶民と交流したというが、日本でも、どんな人も平等に裸になって銭湯を楽しむ伝統がある。「立派なモノをお持ちですな!」などと声をかけられることもないので、宗教的なタブーがない限り、(精神的な意味で)フルオープンで過ごすのもおすすめだ。 いざ浴室に入ったらまず身体を洗う。浴槽のお湯を汚さないための心得だ。同じ理由で、持参したタオルをお湯に浸すのもNG。「このタオルは洗濯したばかり」「このタオルは新品だ」と思うかもしれないが、新品のタオルでもお湯につけると細かい繊維が出てきて、お湯を汚してしまうのだ。 また男女を問わず長髪の人は束ねるなどして、髪をお湯につけないように心がけていただきたい。抜けた髪がお湯に漂わないようにする配慮だ。 マナーといってもこれくらいで、あとは友人と「裸のつきあい」を楽しむのもいいし、リラックスしてメディテーションにふけるのもいい。最後に、浴室から出る時には身体を拭いて、脱衣場の床を濡らしてしまわないように気をつけてほしい。 この記事では温泉を中心に銭湯を紹介しているが、もちろん温泉だけが銭湯の魅力ではない。大田区は「銭湯特区」を名乗るほど活気あふれた銭湯の多い地区で、それぞれの銭湯にそれぞれの味わいがある。 そして東京全体でも、まだまだ多くの銭湯がある。広々としたきれいな空間で大きな浴槽にひたり、脚を伸ばすと日々の疲れも癒やされる。もしまだ体験したことがない、という人は、まずはあなたの街の銭湯を訪れてみるのがおすすめだ。ちなみに東京都の場合、銭湯は520円(2024年3月現在。サウナなどは基本別料金)で入浴できる。