単独取材:金融庁・井藤英樹新長官 株価乱高下の中、投資について
日経平均株価は5日、過去最大の下げ幅を記録し、翌日には逆に過去最大の上げ幅となるなど、乱高下を繰り返している。 【解説】“円安バブル”崩壊?…専門家指摘 株価乱高下 カギ握るのは… こうした中、先月、金融庁のトップに就任したばかりの井藤英樹新長官。個人に株式投資が広がるきっかけとなった新NISAの導入に尽力してきた人物だ。井藤新長官は、「今の株式相場の変動」や「日本企業の今後」について、どのように考えているのだろうか。日本テレビは、就任後初めての単独インタビューを行った。 ■「国民の生活水準や幸せの向上に寄与していきたい」 ――金融庁の長官に就任して実現していきたいことはあるか。解決していきたい日本経済における課題は何か。 金融庁・井藤英樹長官 昨今、いろいろな変化が世の中で起こっています。短期的には金利もそうですけれども、為替市場、あるいは株式市場など、市場の変動もあります。世の中を見渡せばテクノロジーの進展がすごい勢いで世の中に影響を与えています。また、国際的には地政学的なリスクの高まりですとか、政治の動向を見てもアメリカ大統領選でその先どうなるのか、そういった話もあると思います。また、テクノロジーと地政学の緊張の高まりも相まって、サイバーリスクもかなり高まっていますし、国家安全保障的な課題も出てきています。こういった課題にしっかりと対応していくつもりです。 その上で、以前から一生懸命取り組んでいましたけれども、“資産運用立国”といった課題にも引き続き、取り組んでいきます。これはいわゆる成長と分配の好循環という政権の目的と金融庁の目的も一致していて、よりよい資産運用と国民の資金形成を通じて、金融庁の目的としては、より国民の生活水準とか幸せとかをあげられるように寄与していきたいと思います。 ■「株式相場の短期的な変動に一喜一憂せず、コツコツと積立投資に向き合うことが資産形成では大事」 ――新NISAの導入に尽力してきたと思うが、国民の投資と経済の好循環は進んでいると思うか。株式相場が急落(取材は8月5日)していて個人投資家に不安が広がっていると思うが、今の株価は日本経済の実態をきちんと反映していると思うか。 金融庁・井藤英樹長官 新NISAを導入して、これまでも非常に多くの方々に口座も新たに開いていただきましたし、投資額も増えてきているということでかなり手応えは感じてます。ただ昨今、相場の変動等もありますけれども、「長期」・「積立」・「分散」投資とありますので、投資と向き合う際に一定程度、長い目線を持ってぜひ取り組んでいただければと思います。金融庁では、かねてより「長期」・「積立」・「分散」投資というのが家計の資産形成にはより良い、適当なのではないだろうかというふうに申し上げてきたところであります。長い時間軸をとってみると、相場が高い時もあれば低い時もある。そうした中で相場の短期的な変動に一喜一憂するということではなく、コツコツと積立投資に向き合っていくことが資産形成には大事なポイントと思います。 日本経済はコーポレートガバナンス改革等々に、政府も企業も取り組んでいます。そういった面では今後とも、金融庁としては日本経済が成長していくというふうに考えてますし、それに向けて最善の努力をしていきたいと考えています。そうした中で、やはり相場というものは、短期的な様々な要素で上振れ下振れ、変動すると考えると、なかなか短期的にどう推移するかを当てるのはプロでも安定的にできる芸当ではないと思います。 従って、特に個人の方で言えば「長期の目線」で対応していただきたいということです。ある程度の時間軸を持てば、(株価は)より実態に近いところに収斂していくと考えていますけれども、どうしても短期的に振れ幅が大きくなるということもあると思います。市場関係者も含めて、冷静に対応していただければと思っています。 ■人口減少など、地域経済への課題への対応 ――この先の経済を考えるにあたって人口減少も課題になってくると思うが、どのように対応していくか。 金融庁・井藤英樹長官 日本全体に目を向けると、人口減少は地域経済に特に大きな影響を与えつつあるかと思います。人口動態をマクロで見ると、今後もさらにインパクトは大きくなるというような姿も見て取れますが、ただそうした中でも人々の生活水準を維持向上させていくことは、今までの対応を漫然とやるだけではかなり厳しい面もあるかと思いますが、日本人は非常にレベルの高い国民だと思いますし、しっかりと対応すれば、そうしたことは可能だと私自身は信じています。 そうした中で、特に地域金融機関などに求められる役割は今後もさらに大きくなってくるのではないかと思います。そのためにも地域金融機関というものはしっかりと自らのサステナビリティを維持しつつ、求められる金融仲介機能をより良く果たすことが求められてくる状況になっていると思います。元々そうした状況も踏まえ、事業性融資の推進とか地方銀行のビジネスモデルのサステナビリティについては対応の中心にもありましたが、今回、新たに事業性融資推進のプロジェクトチームを立ち上げました。これは一つには先般成立した事業性融資推進法というのがあって、新たに企業価値担保権を創出するというものです。しっかりとした準備を進めなければいけないということもあるのですが、それだけにとどまらず、地域金融機関を巡る課題というのは人口減少も含めてかなり厳しいものがあると思います。 そういった中で、より地域経済を効率的、効果的にしていくための投資というのが求められる部分があると思いますし、また企業のM&Aのようなものも地元でもずいぶん動きがあると思いますが、地域金融機関に期待する役割も増えてきているというふうに考えております。個々の金融機関が置かれている状況は様々ですけれども、しっかりと個別の金融機関の状況を踏まえながら、表面的ではなくて腹落ちした対話をできるような対応を、プロジェクトチームをはじめ金融庁としても築いていきたいと思っていますので、そういった方向で地域金融機関ともしっかりと議論し、サポートしていきたいと考えています。 ――座右の銘は。 金融庁・井藤英樹長官 最近、自分の人生を振り返って、論語のある言葉を大事にしています。「子曰く、之を知る者は、之を好むものに如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」です。どんな辛いことでも困難な課題やチャレンジングな課題に携われて、それを喜びとするような気持ちでやれば、より仕事もうまく進められると思います。なかなか万人にこれを求めるのは難しいかもしれませんけど、むしろそういう気持ちで自分自身はやっています。