上皇さま譲位から5年 象徴としての「帰結」、時代に合った形に 二重権威にもご配慮 譲位5年
雨にぬれた石畳の上を進む傘の列。その中に、モーニングを着た上皇さまのお姿があった。 今月9日、昭憲皇太后の命日に際しての明治神宮ご参拝。上皇さまは天皇陛下、皇后さまのご拝礼後、ゆっくりとした足取りで境内を進まれた。公の場に姿を見せられたのは、約5カ月ぶり。続いて参拝した上皇后さまが階段でバランスを崩され、女性護衛官に支えられる場面もあった。 上皇さまは昨年卒寿の90歳を迎えられ、上皇后さまは89歳となられた。健康維持に努められているが、加齢に伴う自然な体力の低下は避けられない。「被災地見舞いや海外訪問を在位中と同じようになさることは、ご負担を考えると難しかっただろう」。ご夫妻を知る関係者はそう明かす。 生じうる懸念を、誰よりも先に予見されていたのは、上皇さまだった。 ■「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていく」 「これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」 平成28年8月、上皇さまが宮内庁を通じて公表された、約10分間のビデオメッセージ。制度への言及は控えつつも、公務の縮小による負担軽減や、摂政を置く選択肢は否定し、「譲位」の意向をにじませられた。 ご意向が水面下で示されたとされる時期と重なる平成17~24年、宮内庁長官を務めた羽毛田信吾氏は「象徴天皇とはどうあるべきか、を考え抜かれた上でのお言葉。国民一人一人と接し、心を通わせる『実践』あってこそだという、平成の天皇としてのなさりようの一つの帰結だった」と振り返る。 ビデオメッセージは衝撃とともに国民に受け止められ、皇室典範特例法によって31年4月30日、譲位は実現した。元幹部の1人は「実現するまで誰も思い至らなかったが、皇室の長い歴史の中で行われてきた譲位を、時代に合った形に生まれ変わらせられた」とその意義を捉えなおす。一方、「恒久的な制度とするためには、天皇の意思をどのように確認するかを規定する必要がある」と指摘する。 ■譲位後、一切の公務から退く