《ブラジル》現地で活躍する日系組織の今 (20)累計で5千億円超も支援するJICAブラジル事務所
ブラジルに伝えた技術協力をさらに第3国へ
近年は気候変動の影響による自然災害が多発している。JICAは気候変動の「緩和」に資する案件として、森林保全対策や再生可能エネルギーの事業を重視している。 アマゾン森林の違法伐採対策では、JICAはIBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)と共に、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星画像を用いて、アマゾンを覆う雲下の伐採状況をモニタリングすると共に人工知能(AI)を用いて違法伐採の予測探知に取り組んでいる。 この他、パラ州の日系入植地のトメアスにおける持続的農業開発アグロフォレストリーへの支援、太陽光発電事業への融資、ブラジルの産業開発研究・人材育成を担うSENAIとのグリーン水素開発に向けた連携などを図っている。 一方、気候変動の影響(豪雨、旱魃、洪水、土砂災害等)への「適応」策として、日本は防災分野における知見と経験の強みを有している。雨季のチエテ川の洪水は、サンパウロ首都圏の経済・社会機能を麻痺させてきたが、1990年代から約10年にわたって円借款によって支援した洪水制御のインフラ整備により、チエテ川が氾濫することは無くなった。
現在も各地で多発する土砂災害対策等を目的に、長期専門家を派遣して防災分野の政策や構造物対策などの技術協力を行っている。 近年、ブラジルは日本からのこれまでの協力の受益国に留まらず、二国間協力の成果を、さらに中南米地域やアフリカなどの他地域に展開する協働パートナーにも変貌しつつある。「南々協力」ないし「三角協力」と称し、中米諸国での地域警察案件やアンゴラ、モザンビークなどのポルトガル語圏アフリカ国での保健医療や産業人材育成などが展開されている。日本はブラジルとの長年かつ多岐にわたる協力と信頼の実績を基に、世界の食料安全保障、気候変動対策、感染症対策などの地球規模課題に共に取り組むことが可能である。
民間連携と市民社会参加型協力
開発途上国の課題解決の有効なアプローチとして、政府や政府系団体向け協力以外に、民間セクター、大学、NGO、自治体が主体となる協力事業もJICAは重視している。 ブラジル政府は民活イニシアティブを重視しており、実際に民間セクターはブラジルの経済社会開発の中で大きな役割を占めている。JICAは農業、保健医療、電力、環境保全、中小零細企業支援などにおいて民間事業体に対して出資・融資(海外投融資)を通じて支援している。 現在、世界的にJICAの海外投融資の承諾件数はブラジルが最大国の一つとなっており、今後も民間セクターへの投融資を通じた支援はブラジルにおけるJICA業務の主軸の一つになるだろう。 また、日本各地の中小企業が有する技術は、ブラジルの様々な課題解決にとっても有効である。防犯、防災、インフラ補強・補修、炭素貯留量測定、廃棄物処理・リサイクル、高齢者介護などのブラジルでのビジネス化に向けた調査や実証事業を支援している。 近年注目されている本邦企業のスタートアップのブラジルでの展開可能性についても、コンサルティング・サービスを付ける支援スキームを導入した。その支援過程において、JICAが培ってきた政府機関との信頼やネットワークも活かされている。 市民参加型事業としては、草の根技術協力事業があり、例えば島根県と聖州カサパーバ市の間で実施された小学校教員の環境教育の指導力向上を目的とした事業は、日本から帰国したJICA研修員が中心となって環境教育のメソッドや教材が開発され、2022年には環境教育プログラムが市の法令として制定されている。
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