謎の多い「博士課程」、経験者が語る本当の価値とは?知識を「学ぶ」のではなく「作りに行く」場である
ゴキはゴキでも、その辺にいるゴキではない。沖縄のやんばるに生息する「クチキゴキブリ」に魅せられ、世界でただ1人その研究をしている人がいます。行動生態学を専門とする大崎遥花さんです。 大崎さんの初の著書『ゴキブリ・マイウェイ この生物に秘められし謎を追う』では、ゴキブリ愛にあふれた研究生活がさまざまなエピソードとともに紹介されています。 【イラスト】筆者が研究対象とするクチキゴキブリ。幼虫に給餌する親のようす(筆者画) 同書から抜粋し、3回にわたってお届けします。 第3回は、「博士課程」に進む価値についてです。
■博士課程の価値 「博士課程」と言うと、一般的に返ってくる反応といえば、 「就職しないで学生して遊ぶの?」 「お勉強好きねぇ」 「行って何するの?」 「そもそも博士課程って何?」 さんざんである。 読者の中にこれから博士課程に行こうとしている人がいれば、どこかで「博士課程に行くと就職できない」とか「婚期が遅れる」とかネガティブな意見ばっかり聞いていると思う。巷(ちまた)にはそんな博士課程に風当たりの強い評価があふれている。
しかし私はそうは思わない。 博士課程について謎が多いと思っている読者のために説明しておきたい。 博士課程において、「学生=遊んでいる」という概念は通用しない。博士課程は研究、つまり思考と実践と修正に絶え間なく取り組む期間である。大学院生(生物学系の場合)がやらなければならないことをざっと挙げると、 ・論文の執筆(もちろん英語) ・最新研究のチェック(つまり英文論文を毎日読む) ・実験やシミュレーションの設計、準備、そして実行
・得られたデータの解析(プログラミング) ・データの解釈や結果のインパクトの検討(これまでの研究とどう違い、どこが面白いか) ・ゼミの資料作成とそのための文献検索やミーティング ・研究材料の日々のお世話(大崎のクチキゴキブリのように飼育する生物がいる場合) となる。つまり、職業として研究している研究者と何ら変わらない、研究に身を捧げる毎日を送っている。大学での研究の実務を一番担っているのは実は学生だ。それなのに「博士課程なんて何してるかわからない。学生期間を延長して遊びたいだけでしょ?」なんて思われていたら悲しいことこのうえない。